研究紀要第120号 「豊かな人間関係を育む指導援助に関する研究 第2年次」 -106/117page
カードには「自分一人だと少ししか考えが浮かばなかったけど,友達やみんなの意見を聞いて考えが広がった。」「みんなそれぞれいろんな考えを持っているんだなあと感心した。」といった感想が多く見られた。全体発表では,代表者の発表に触発され,挙手して補足発表する児童が次々と現れた。
<結果の考察>
「無人島SOS」の活動を通して,肯定的な感情交流を促進することができたと考える。他者のよさを取り入れる活動を行ったことにより,終末の振り返りカードでは,「友達は,僕と違う考えを持っていることに気づいた。」「友達のことが少し分ったのでよかった。」「いつも話さない人とも話ができてよかった。」「他のことでも友達の考えを取り入れていきたい。」というような肯定的に他者を理解し,他者とかかわろうとする姿勢が見られた。このことから,他者理解の促進が他者受容に結びついていくことが分った。
(3) 実践の考察
1. 事前・事後調査の結果と考察
ア 事前・事後調査の比較から
平均値でみた自己肯定感については,事前と事後での変化は見られなかったものの,他者とかかわりたい思いについては,事前を上回った。
次に,自己肯定感を構成する項目ごとに,その変化を「あてはまる」「大体あてはまる」の割合で見てみると,肯定的な自己理解は5.3%減少し,肯定的な他者受容は6.5%増加している。
また,自由記述から見た自己受容については,よさとしてとらえた総数は2割程度減少したが,記述された内容のほとんどは他者との関係でとらえたものであり,人間関係の広まりや深まりを感じさせるものが見られるようになった。一方,欠点の自己受容としてとらえた総数は3割程度減少した。記述された内容のほとんどが他者との関係でとらえたものであり,それぞれの児童が人間関係における自己の改善点を把握しつつある。このことから,児童は自分を客観的に見つめ,自分のよさや欠点に気づき,ありのままの自分を受け止められるようになったと考えられる。
イ 「めざす児童の姿」から
○ 「自己を肯定的にとらえ,自分のありのままを表現できる児童」から
事前調査では,特技や趣味などをよさととらえていた児童が,事後調査では「誰とでも話ができる」「友達に侵しく接することができる」「みんなから信用されている」といった友達との人間関係の視点から自分のよさをとらえるようになった。一方,欠点についても他者とのかかわりの面からとらえる傾向が強まった。こうした変容の背景には,自己理解や自己受容が肯定的な面と否定的な面の両面にわたって行われており,「自己をありのままにとらえようとする目」が育ったと考えられる。
○ 「安心感や信頼感をもち,共に活動したいと思う児童」から
「知りたい思い」「一緒に活動したい思い」「大切にしたい思い」のそれぞれにおいて,「あてはまる」の割合が,事前の結果を上回った。特に,「一緒に活動したい思い」「大切にしたい思い」は10%以上の増加があった。
肯定的な他者理解に視点をあて,自他のよさを伝え合ったり,よさを取り入れ合ったりする活動を通して,他者とかかわりたい思いを高めることができたものと考える。
2. 視点をあてた児童の姿から
ア 事前調査及び日常生活の様子から
N子は,事前調査では,「自己肯定感」「他者とかかわりたい思い」のいずれも学級の平均値を下回っていた。また,日常生活においては自分から友達に積極的にかかわることができず,やや閉鎖的な傾向をもつ児童であった。
イ 授業の様子から
○ 「いいとこさがし」の活動(1回目の授業)
では,エクササイズの途中で緊張したり,シェアリングの場面で感情が高ぶったりする姿も見られたが,振り返りカードの記入を通して,友達のよさに気づいたり,友達に対する自分の思いを確かめたりすることができた。このことから,他者理解・自己