研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -060/076page
不利益の理解などによって規定されることから,感情や行動に対する振り返りや他者からの評価によって,行動化や行動選択の促進が図られるといえる。したがって,指導援助の基本は,肯定的な感情の表出,交流を促進しながら,児童生徒に,快・不快,利益・不利益などに“気付かせる”アプロ―チ(振り返りの場の重視)となる。それが,自らの態度,行動を変容させていくきっかけになると考える。
指導援助の中心は,学校生活をおくる上で最も基本的で,心の交流が図りやすい学級という単位を基本として展開される学級活動の場が望ましいと考える。
研究の3年次にあたる今年度は,「思いを伝える技能」が高まる指導援助の在り方に焦点を当て,研究主題に迫る。IV 研究の実際(3年次)
1 人間関係をつくる力に関する調査
児童生徒の人間関係をつくる力を中心にT,その実態を明らかにし,適切な指導援助の方向性を探るための事前調査を実施した。
調査は,選択肢法(4件法)と記述式の組み合わせを用い,研究協力学級である小学校6年,中学校2年の2学級を対象とした。
<調査項目内容>
◇ 自己肯定感の程度をとらえる項目
◇ 他者とかかわりたい「思い」(広まり,深まり)の程度をとらえる項目
◇ 思いを伝える「技能」(聞く,話す,接する)の程度をとらえる項目
◇ 人間関係をつくる力が高まるための背景をとらえる項目
◇ 学級の雰囲気をとらえる項目事前調査の結果(4件法の平均値),2学級とも,肯定的な他者受容や友達とかかわりたい思い,心理的距離が高い数値を示しているにもかかわらず,友達関係の深まりに結びついていないという傾向にあった。理由として,肯定的な他者理解と思いを伝える技能の低さが考えられる。また,「すぐ怒ってしまう」「言いたいことを言えない」と,自分の欠点をとらえている。これらのことは,相手の気持ちを受け止める体験の不足や,かかわり方を学ぶモデルがいないためと考えられる。
2 指導援助の仮説
学級活動の場を中心として
1 モデリング学習 と リハ―サル学習 を学習過 程に効果的に位置付けながら, 認知スキル や 行動スキル を育成することにより態度化が促進される。
日常指導の場において
2 自己肯定感や基本的技能を育成しながら, 1の補充・補完,強化を図る。
1と2を相互に関連付けた指導援助を継続することにより思いを伝える技能が高まり, 行動化が促進され,豊かな人間関係がはぐくまれる。[仮説の概念規定]
口 「モデリング学習」について
モデルとなる人の行動を観察したり模倣したりすることにより,観察者が新しい行動を取り入れたり,今までの行動を修正したりする過程をモデリング学習と定義する。この学習では,今までの自分の行動や考え方にっいて振り返ったり,友だちの考えや感情を知ったりする場を位置付けることが大切と考える。口 「リハ―サル学習」について
人間関係に適切な行動を計画し,言語的に反復したり実際の行動で実験的に試みることによって実践に進む過程をリハ―サル学習と定義する。この学習では,自分の考えを生かして計画すること,リハ―サルの中での行動や感情,思考について振り返ることが,日常での行動化へと進めていく上で重要であると考える。口 「認知スキル」「行動スキル」について
認知スキルとは,ある事柄や他者の言動と自分の知識や経験を結び付けることであり,1 課題は何かをとらえる 2 どうすべきかを考える 3 他の情報を収集し,よりよい方法を考える 4 実践の結果を考える などである。行動スキルとは,認知スキルを受け, "どう行動するか?”の具体的な行動,表