研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -066/076page

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師)のやりとりであった。断る生徒役の補助教師が断り切れずに誘われそうになる場面では,身を乗り出してその様子を見入る生徒の姿が見られた。

 イ 相手や自分の気持ちを考えて断る「口―ルプレイ」

「ルールの説明」では,本気で誘う,誠意をもって断る,授業後冷やかしの材料にしないことが確認、された。担任の言葉にうなずいて応える生徒,相手と顔を見合わせ互いの気持ちを確かめようとするぺア,ふっとためいきをついて不安げな生徒も見られた
「ロールプレイ」では,学校生活において身近に起こりやすい3つの場面から,自分としては断りやすい場面を1つ選択し,行うことにした。

場面1:部活のとき[アメなめる?」と差し出した友達に対して
場面2:突然の雨。持ち主不明の傘を見つけて「借りちゃお。」と誘う友達に対して
場面3:土曜日の午後,部活があるのに「街に遊びにいこう。」と誘う友達に対して

 断る役と誘う役(1回交替)を決めると,1回目に断る役の生徒が,選択した場面を相手に伝えた。
 「シンキングタイム」では,相手にどう対応するかを考えた。「難しい」と口にした生徒も次第に相手と視線を合わせないで,じっと考え込んでいた。教室全体にぴーんと張り詰めた空気が流れた。
 担任の合図で―斉に口ールプレイが行われた。

友達の誘いを断る口ールプレイ
[友達の誘いを断る口ールプレイ]

 相手を納得させるような理由や言い方で断ることができたぺア,誘いを断り切れず平行線をたどったぺア,途中どうしていいかわからず中断しがちなぺアも見られた。いずれも終了の合図にほっとした表情が表れ,緊張や葛藤が大きかったことがうかがわれた。

 ウ 相手や自分の気持ちを考えて断る自己表現の「シェアリング」

 ぺアでは,断ることの難しさについて感じたことを互いに出し合い,共感し合う姿が見られた。
 全体では,断る役の感想として,「誘い方がうまくて思わず引き込まれそうになった」「強引に誘われてぐらついた」「いろいろと言われて困った」など,誘う役の感想として「誘っても誘っても,いやというだけでいらいらした」「断り続ける相手をしぶといと思った」などが出された。また担任が「断ることで,相手に対して悪いと感じた」というぺアの感想を紹介すると,多くの生徒が「私(たち)も」というように大きくうなずいていた。

<考 察>

 振り返りカードから,「断っているとき複雑な気持ちになった」「相手の言葉や反応が気になった」「相手の誘いを断って悪いなと思った」など,相手の気持ちを大切にすることを通して,自分の気持ちの揺れを実感している生徒が多いことがわかった。
 ロールプレイの中で「いつも断れない」「もともと自己表現が得意じゃない」自分を感じながらも,シェアリングを通してそういう自己と向き合い,「自分の考えをもちたい」「自分の気持ちを大切にしたい」という意識をもつ生徒も見られた。
 相手の気持ちを考えることの難しさに直面しながら「こういう誘いは断り切れず,気まずくなってしまうので,もっと断り方を鍛えたい」「説得カのある伝え方をしてみたい」といった自己表現の態度化が促進された生徒も見られた。
 一方,「授業では断ることができたが,日常場面では難しい」と感じた生徒は,53.0%であった。こうした生徒の多くは,「断ったら仲が悪くなってしまうのではないか」「あまり仲のよくない人には断れないかもしれない」と記述しており,日常場面で実施できるようになるためには,さらに段階を踏んで,態度化や行動化を図っていく必要がある。


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