研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -068/076page
<考 察>
モデルの観察やロールプレイによる役割体験を通して自己表現に対する課題意識が高まった。l 回目のロールプレイ後の話し合いでは不安を受け止めてもらったり,相手への思いが伝わりやすくなるような方法を―緒に考えたりすることにより,2 回目のロールプレイへの意欲や取り組みが促進された生徒も見られた。
断る役の生徒の振り返りカードでは,やさしい言い回しや穏やかな表情・しぐさを取り入れた表現の仕方にとまどいや恥ずかしさを感じながらも,相手に理由をはっきり述べることや,相手の気持ちや立場を考えて,ていねいに断る姿勢や態度が大事であることを実感した生徒もいた。日常場面でも実行できそうだと自信をもつ生徒も見られた。頼む役の生徒からは,「少し強引に頼んだのに怒らずにやさしく対応してくれて,これ以上頼むと悪いなと思った」「自分が傷つくことは相手も傷つく。相手の気持ちも考えて行動しようと思う」などの感想があった。観察役の生徒からは,「納得できる理由があって,頼んだ人に嫌な感じを与えないように表情もやさしかったのがよかった」「相手が納得できるようにていねいに話しているのがよかった」などの感想があった。
自己や他者の気持ちを大切にした自己表現のよさに気付き,進んで取り入れようとする態度化が図られた。
c 日常の指導の概要と考察
○ 考えていたことや感じたことを自由に表現する班ノートや6行日記等の取り組み,それらを取り上げ,肯定的に受け止め,フィードバックする学級通信づくりの実践を行った。この実践を通して,生徒たちは自分の気持ちと向き合い,そこから自己への気づきを深めたり,他者との共通点や違いから,相手の気持ちを考えたりすることができるようになった。
○ 感情を伝える活動では,ジェスチャーなど言葉以外でも気持ちが伝わることに,驚きや新たな発見をする生徒が多く見られた。また,言葉による表現の重要性を改めて感じた生徒も見られた。
(4) 指導援助の考察
a 自己表現チェックリスト(4件法;設問数10)の事前・事後を比較すると,全項目にわたって0.1〜0.4ポイントの上昇が見られた。
認知面では「相手の気持ちを考えて,わかるように話そうとする」など4項目と,行動面では「相手の話すのを目を見てしっかり聞く」の項目において0.3〜0.4ポイントの上昇が見られた。b これまでの実践を振り返った生徒の自由記述から,「以前の自分は言いたいことをため込んでいたからイライラしてたんだと思う。素直に自分の気持ちを言うことは自分にも相手にも良いことなんだなと思った」「普段の生活場面においても,相手の気持ちや立場を考えて意見を言えるようになった」など,自己表現チェックリストの結果を裏付ける内容が数多く見られ,自己の変容を肯定的にとらえていることがわかった。
c 1回目の授業以前には,「嫌なことでも断れない」「自分の意見が言えない」生徒が,授業後には「日常生活ではなかなか断ることが難しいと思うが,授業の中では断ることができる」ようになり,「自分の立場や状況をはっきり述べる能カ・自分の気持ちや意見を素直に表現する能カ」を高めたいと考えるようになった。
また,「親しい友達だったら断ることができるが,そうでない人には断ることができない」と考えていた生徒は,「相手の言葉や気持ちを受け止めていることを示す能カ」を高めたいという目標を持つようになり,その後の経過を振り返った作文の中では,「以前は友達と話をするとき,自分の言いたいことばかりを言って,相手の話を本気に聞いていない感じだったが,最近は相手の身になって話を聴けるようになった。友達と楽に付き合えるようになった」と言う感想を持つようになった。
以上のことから,一連の指導援助のねらいに基づく実践は,自己や他者の考えや気持ちを大切にした自己表現への意識の高揚や態度化に結びつくことが確かめられた。