研究紀要第134号さまざまな調査を基にして「個に応じた学習指導」を実践するための基礎研究- 024/069page

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学習の意義を捉えることと「学力」には,強い相関があることを数量的に確認できた。また「考える態度」と「学力」にも強い相関があることが確認できた。このようなことは,改めて調査するまでもないことであるが,実際の学習場面では,教師がこの基本を忘れて,単に学習量を増やすだけの指導がなされていることが多いのではないかと感じる。学力の向上を図るためには,もう一度学習指導の基本を確認する必要があると考える。

 2 問題解決能力の育成のための基礎研究

 (1) はじめに

 「第3回IEA国際数学・理科教育調査」結果によれば,日本の児童・生徒(小学5年生・中学2年生)の算数・数学及び理科の学力は,国際的に見て依然トップクラスにあり,これらのデータから見る限り小・中学校段階での児童・生徒の学力は,全体としてはおおむね良好である(初等中等教育と高等教育との接続の改善について 1999年12月 中央教育審議会答申)。

 しかしながら,算数・数学や理科の学習に対する態度についての同調査結果によれば,小・中学生は,算数・数学や理科が好きという割合は,国際的に見て低いレベルにあり,また,中学生は,これらの教科の学習が生活にとって大切であるとか,将来数学や科学に関する職業に就きたいと考える子供の割合も低いレベルにあり,学ぶ意義や学ぶ楽しさを実感できる学習指導の改善が求められている。

 また,「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2000年調査国際結果報告書」によれば,日本の子供(15歳 高校1年生)の「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」は参加国の中で最も高い第1グループに入り,「読解力リテラシー」は第2グループに入ることが明らかになった。その内容を詳しく見ると,基礎的・基本的な知識の習得レベルは高いが,実際の問題解決場面でその知識を使ったり,文章全体の大意を把握し自分なりにその意味付けをする能力は,必ずしも高いとは言えないことが明らかになった。

 以上の調査・研究報告書は,次のような二つの問題点を明らかにしている。一つ目は,子供たちが必ずしも学ぶ意義を感じて,学習に取り組んでいるとは言い切れないということであり,二つ目は,実際の問題解決場面で生きて働く知識を生徒が身に付けているとは言い難いということである。

 知識の充実は問題解決のための内的資源の充実として大切なことであるが,問題解決のためにはすでに持っている知識をどのように使えるかが重要である。そのためには,個々の知識の関係を分析・整理し,それらの意義を知り,それらの知識を統合・構造化して,問題のスキーマを明確化できることが必要である。さらに,そのスキーマに基づいて,問題解決のためのストラテジー(注釈2)を,自ら立てることができるような問題解決能力を育成することが必要である。

 このような学力を育成するためには,ぺーパーテストだけではなく,一人一人の学習過程を形成的に評価することが大切である。すなわち,実際の問題解決場面を設定して,その解決の過程を評価するパフォーマンス評価などを取り入れることが重要である。しかしながら,このような問題解決能力を的確に評価し,その後の学習指導に生かすためには,パフォーマンス評価のような記述評価だけでなくぺーパーテストによって,問題解決能力を可能な限り量的に測定する試みも必要であると考える。実際,先に述べた「OECD生徒の学習到達度調査」はこのような観点からも調査がなされている。

 この研究項目「問題解決能力の育成のための基礎研究」においては,このような学力についての能力を測定するための試験問題(「一次関数と一次方程式,変化の割合,平方根,規則性の発見,数学的読解力に関する総合的な学力・発展的な学力を測るための試験」)を作成し,試験を実施した。この試験を,「総合的・発展的な学力試験」と呼ぶことにする。

 この試験によって明らかにされた問題解決能力に関する学力到達度と「NRT学力到達度試験」結果,「論理的文章の読解力試験」結果との相関について考察するとともに,「学習調査」結果との相関についても考察し,「確かな学力の向上」のための指導の在り方について幅広く研究した。

(注釈2)ストラテジー…戦略,道筋


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