研究紀要第134号さまざまな調査を基にして「個に応じた学習指導」を実践するための基礎研究- 025/069page

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 (2) 「総合的・発展的な学力試験」の出題のねらい

 研究項目1では,「学力到達度試験」(数学)によって,一つ一つの基礎的知識の定着率を測定した。この研究項目2では,数学だけの範囲とは限らない実際の問題解決場面を設定し,ぺーパーテストの形式で問題解決能力を測定する「総合的・発展的な学力試験」を作成し,その試験を実施した。
 作成の観点は,次の5つである。

@ 「学力到達度試験」(数学)と同じ学習項目についての問題を作成し,一つ一つの基礎的知識の定着率と「総合的・発展的な学力試験」の得点率の比較ができるようにした。
A 今回の調査・研究においては,特に読解力との関係を明らかにしたいと考え,数学といろいろなタイプの文章読解との融合問題を作成した。
B 問題のストーリー性を大切にし,解く意義や楽しさを感じて解くことができるように問題を作成した。
C 各学力層の生徒が,問題解決のどの段階で「つまずく」のかを分析することができるように難易構成を段階的に設定した。
D 問題のスキーマを明確化し,問題を解く過程で得られた新たな知識を総合的に活用して問題を解決する能力が測定できる問題を作成した。

 次に,「総合的・発展的な学力試験」の各大問の出題のねらいについて述べる。[大問1]は,数学の基礎的な知識を問うとともに,論理的文章の読解力を測る問題である。[大問2]は,理科的な実験結果から新たな知識を得て,次の問題にそれを活用する能力を測る問題である。[大問3]は,平易な会話文の中から適切な情報を取り出し,それを問題の解決に活用する能力を測る問題である。[大問4]は,OECD調査問題を改題したものである。[大問1]以外の各大問は,すべて中学校の学習範囲を超える内容を含んだ問題であるから,この試験は,新たな課題に立ち向かう能力を測るための試験である。

 また,各大問の最後の小問は,その問題全体の大意を把握し,それまでの小問を解く過程で得られた新たな知識や問題解決のための新たなストラテジーを使って解決すべき問題とした。

 (3) 「総合的・発展的な学力試験」結果の分析

 [大問1]以外の大問では,全般的にどの学力層の正解率も,教師の予想正解率を上回った。特に,[大問2]では,実際の正解率が教師の予想正解率を大きく上回った小問が多かった。教師の難易予想は,その大問の最終的な結論の難易のみで行う傾向がある。例えば[大問2]の最終的な結論の内容は,高等学校の数学Vの微分積分の範囲の内容であるから,生徒の知識では解決できないと判断し,低い正解率を予想した。さらに,大問全体が系統だった長い問題になっていることから,生徒は問題全体の流れを把握することができないと判断し,低い正解率を予想した。

 このような教師の予想に反して,生徒の正解率が高かった原因を考察することによって,「問題解決能力の育成」のための学習指導の在り方について考察した。

 例えば教師は,[大問2]が系統だった長い問題であるから,低い正解率を予想した。果たしてそうだろうか。[大問2]を解く過程を段階的に確認する。まず各小問を解くために,それまでの学習によって獲得したスキーマを使って,各小問一つ一つの数学的な言葉や一つ一つの文の意味内容を理解し,その小問全体のスキーマを形成し,そのスキーマを基に問題解決のストラテジーを立てて問題解決にあたる。さらに,各小問を段階的に解決することによって獲得した一つ一つのスキーマを基に,[大問2]全体のスキーマを明確にし,[大問2]全体のまとめの問題である最終問題の解決にあたる。

 [大問2]の内容は,高等学校の微分積分の内容に関わる問題であるから,問題を解く過程において必ずその生徒なりの誤認識が発生し,それを修正しながら段階的に問題を解決しなければならない。作問者である我々は,生徒がこの教訓的な修正作業をスムーズに行い,段階的に問題解決のためのスキーマを明確にすることができるように,新たな知識を得るための問題と,その知識の意味を確認するための問題をペアで設定した。さらに,問題に具体的な実験的要素を加味することで,解決した各段階の問題を振り返り,獲得した知識の意味を捉えやすくする工夫をした。これらの効果によって,教師の予想を超える


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