研究紀要第134号さまざまな調査を基にして「個に応じた学習指導」を実践するための基礎研究- 026/069page

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正解率が得られたと考えられる。

 このように,丁寧に段階を踏んで,問題解決のためのスキーマを生徒自身が形成できるような指導を行えば,教師が考えるよりも優れた力を生徒は発揮することが分かる。このようなスキーマの形成は,一人一人の内部において行われるものであり,その形成過程は一人一人異なる。したがって,適切なスキーマの形成を手助けするための方策として,各大単元の指導過程に,「その単元の学び方」について教師がガイダンスする時間を位置付けることが,適切なスキーマの形成にとって有効であると考える。

 (4) 「学習調査」結果の再分析

 NRT成績と「総合的・発展的な学力試験」成績を比較して,NRT成績の方が良いグループをグループ(N),「総合的・発展的な学力試験」成績の方が良いグループをグループ(S)として分析を進めた。さらに,「総合的・発展的な学力試験」成績による3つの学力層A層,B・C層,D・E層によって,グループ(S)を3つのグループA(S),B・C(S),D・E(S)に分けた。同じように,グループ(N)もこの3つの学力層によって,3つのグループA(N),B・C(N),D・E(N)に分け,それぞれのグループの特徴について分析した。ただし,A(N)に該当する生徒が1名しかいないため,A(N)は分析対象から外すことにした。

 グループ(S)は「考える」という学習態度を重視する傾向が強い。その反面,A(S)を除いた残りのグループ(S)の生徒たちは,グループ(N)の生徒たちと比べ知識を定着するための努力が苦手であり,その結果,自分の学力に自信が持てないでいることが分かった。しかしながら,グループ(S)の生徒たちは,学力の向上にとって大切な「考える」態度を身に付けているのだから,基本的な知識を定着するための努力を行えば,大きく学力の向上が図れる可能性を秘めているとも言える。

 しかし,このグループ(S)は学ぶ意義を重視する集団であるから,単にドリル的な学習量を増やすだけでは,逆に彼らを「学びの場」から逃避させてしまう結果となる。したがって,グループ(S)の生徒たちの学力の向上を図るためには,楽しく「考える」場面を取り入れながら学習の意義をとらえさせることによって,知識の定着のための努力を促すことが必要である。

 一方,グループ(N)は,知識の定着のための努力はできるが,「考える」ことを避ける傾向が見られる。

 したがって,グループ(N)の生徒の学力の向上を図るためには,彼らに「考える」ことを楽しむような学習態度を育成する必要がある。

 以上のことから分かるように,どちらのグループであっても,単にドリル的な学習量を増やすだけでは学力の向上は図れない。学力の向上を図るためには,授業の質の改善を図ることを避けて通ることはできない。すなわち,生徒自身が学ぶ意義を求め,それを明確にできるような活動を取り入れ,生徒自身が「学びの文脈」を作り上げ,学ぶ目標を持つことができたならば,学習の過程で避けることができない努力から逃避することはないと考える。

「総合的・発展的な学力試験」結果とNRT数学成績の偏差値の相関   「総合的・発展的な学力試験」結果とNRT数学成績の偏差値の相関


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