長期研究員の研究 研究紀要第138号読解力の向上を図るための速読・多読指導の工夫-054/069page
読解力の向上を図るための速読・多読指導の工夫
−WPMの向上を目指した速読練習を通して−長期研究員 五十嵐 逸 郎
T 研究の趣旨
中学校の読解指導においては,精読を中心に進められる傾向にあり,一語,一文及び一段落に注目させながら読みとっていくように指導されている。その結果,生徒は,丁寧にゆっくり読みとっていく読解の仕方に慣れている。そのため,できるだけ速く読んで概要を読みとっていくといった速読はあまり実践されていない。また,現行の教科書では,読み物教材が減り,生徒の読む量が減ってきている。
そこで,本研究では,読む速さと量に着目し,WPMの向上を目指した継続的な速読指導により,読む量を増やし,読む楽しさを味わわせることから読解力の向上を図りたいと考え,研究に取り組んだ。
U 研究の概要
1 WPMを用いた速読・多読指導
WPMとは,一般に,Words Per Minutesのことで,「一分間に読める英単語量」を指す。本研究では,従来のWPMの考えに理解度を加味して算出する方法※1を採用し,下記のような計算式で算出された数値をWPMと定義する。
※1 東京国際大学助教授の山内豊氏が用いた方法WPMは,読みの速さと理解度の結果が数値として表されるため,WPMの向上を目指して自己の変容を把握しながら主体的かつ意欲的に読解学習に取り組ませることができる。また,一定期間継続して実践することによって,読む量を増やすことができる。
2 学習段階を考慮した「速読」教材の作成
速読の指導では,教材に書かれている概要をとらえることをねらいとするため,使用する教材は,生徒の英語力の実態より少し低いレベルが適当であると言われている。具体的には,教材に使用する語彙及び文法事項は,ほぼ既習のものであることを前提
として作成する必要がある。そこで,本研究は,中学3年生を対象として実施するにあたって,中学2年生程度の英語力を問う「英検4級の過去の出題問題(日本英語検定協会)」と「英検4級予想問題集(旺文社)」※2の読解問題の一部を活用して教材文を作成した。理解度を確認するための問題はオリジナルでT/F Questions※3を1教材につき4問作成し,20回分を作成した。※2 英検4級の過去の出題問題と英検4級予想問題の活用にあたっては,日本英語検定協会と旺文社の借用許可を得た。
※3 問題として書かれていることが,英文の内容と合っていればTrue(○)で,合っていなければFalse(×)で答える形式の問題3 授業の実際
本研究では,学習過程の始め(10分間)に「リーディング・マラソンタイム」と位置づけ,20回継続して実施した。
(1) 「速読」のねらい・ポイントの理解
速読は精読とねらいが異なるため,その方法も異なる。事前指導として,速読のねらい及びポイントを次のように示して理解させた。
〈ねらい〉
◎ 英文を早く読むことに慣れる。
◎ 英文をザッと読んで,概要を理解する。