長期研究員の研究 研究紀要第140号色彩感覚を豊かにするための授業の工夫-058/069page
色彩感覚を豊かにするための授業の工夫
−切り絵によるセルフポートレートの制作−長期研究員 高 橋 克 之
T 研究の趣旨
今までの授業実践について振り返ったところ,ポスターの制作や商品パッケージの制作など,さまざまなデザインの表現活動において,色彩感覚に悩む生徒が多かったように感じられた。そこで,色彩感覚の自信について,研究協力校の生徒105名を対象に調査したところ,自信が「ない」「あまりない」と答えた生徒は8割弱という結果となり,色彩感覚に自信をもてない生徒が大変多いことを把握することができた。色彩感覚を重点的に伸ばそうとする題材は色彩構成である。そこで,色彩感覚を豊かにするための色彩構成の授業の工夫について明らかにしたいと考え,研究に取り組んだ。
U 研究の概要
1 研究仮説
色彩構成において,「切り絵」を活用し,「自分の顔」をモチーフとすれば,色彩感覚が豊かになるであろう。
2 研究の実際
(1) 色の選択について何度も試行錯誤させるための技法の工夫(「切り絵」を活用する)
今までの色彩構成では,「水彩」を活用することが多かった。しかし,「水彩」は技術面でつまずきやすいため,色の選択について何度も試行錯誤することができない。そのことが,色彩感覚に自信がもてなくなる要因の一つであると考えた。そこで,「切り絵」を活用すれば,つまずくことが少なくなり,色の選択について何度も試行錯誤することができるため,色彩感覚に自信がもてるようになるであろうと考えた。(2) 表現意欲を喚起するためのモチーフの工夫(「自分の顔」をモチーフとする)
今までの色彩構成では,円や三角形など,「幾何形体」をモチーフとすることが多かった。しかし,「幾何形体」は生徒に強い関心がもたれないことが多い。そのことが,色彩構成の課題に意欲的に取り組めない要因の一つであると考えた。そこで,発達段階を考慮した結果,「自分の顔」をモチーフとすれば,表現意欲が喚起され,生徒が色彩構成の課題に積極的に取り組めるであろうと考えた。なお問題点として,自分の顔をモチーフとすることが生徒にとって「恥ずかしい」「難しい」と感じられることが予想された。これらの問題点への対応策として,「PC等の活用」や「転写」を計画した。(3)題材の各学習活動における工夫
対象学年 第1学年 105名
題材名 「切り絵によるセルフポートレート」
<題材の展開>@ 主題の決定 } 9時間 A 色彩計画 B 製作 C 鑑賞 1時間 @ 「主題の決定」における工夫
主題を明確にすることができるよう,次のように計画した。
ア 教師が準備した「顔の写真資料」をもとに,主題について考える。
イ 「今の自分」・「これからの自分」の二つの観点のどちらかをもとに,主題について考える。
ウ 「色相についての色とことばの関係表」・「トーンについての色とことばの関係表」の二つの資料のどちらかから,主題となることばを選び出す。A 「色彩計画」における工夫
色彩計画を明確にすることができるよう,次のように,「色とことばの関係表」を活用することを計画した。
ア 「色相についての色とことばの関係表」(表1)から主題を選んだ場合,「色相をそろえていく色彩計画」を立てる。
イ 「トーンについての色とことばの関係表」(表2)から主題を選んだ場合,「卜ーンをそろえていく色彩計画」を立てる。