長期研究員の研究 研究紀要第141号運動の有効性を実感する授業-060/069page
運動の有効性を実感する授業
−保健と体育の関連を深めた授業を通して−長期研究員 紅 屋 聡
T 研究の趣旨
社会の急激な変化に伴う成育環境や生活行動の変化は,生活習慣病を急増させている。生涯を通じて健康的な生活を送るためには,これを予防するようなライフスタイルを若年時から確立することが求められている。そのためには,食事・運動・休養のバランスを適切にコントロールすることが必要である。
高校生という発達段階において,生活の中に運動を取り入れる必要性を理解し,実践する意義は極めて大きい。
本研究では,生活の中に運動を積極的に取り入れる意欲を高めることをねらい,保健と体育の関連を深めた授業展開を工夫した。
U 研究の概要
1 題材の設定
保健と体育の関連を深めた授業を展開するための題材として「ダイエット」を取り上げた。
2 題材設定の理由
(1) 生徒の興味・関心が高い。
(2) エネルギーの収支と運動の関係を捉えやすい。
(3) 健康の保持増進のために有効な運動の二側面について理解しやすい。3 学習過程の工夫
運動の有効性を実感し,運動への意欲が高まるように,1学年の保健の学習内容と体育の体つくり運動を関連させた授業展開を工夫した。
単元「生活習慣の基本を考える」総時数6時間
第1時 理想的な食事の内容とタイミング 第2時 イメージマップの作成
リバウンドの謎第3時 身体組織と運動の関係
宇宙ステーションの生活第4時 有酸素運動時の目標脈拍数の算出1週間の運動プログラム例の提示 第5時 ウォーキングによる運動強度の体験授業で行うストレングス 第6時 筋カアップのための手軽な運動
各自の週間運動プログラムの作成※第6時終了後,体育の授業において,筋力を高める運動を補助運動として継続して行い,習慣化を図った。 4 授業の実際
(1) イメージマップの作成
ダイエットを中心語にしたイメージマップを各自で作成した。
<ダイエットを中心語にしたイメージマップ>多くイメージされた語句は,食事制限(断食・絶食),減量,単一食品(リンゴ,こんにゃく等)によるダイエット法,薬,ダイエット食品などである。食事を制限したり,薬を利用したりして体重を減らすことがダイエットのイメージの多数である。
一方,運動に関する語句(運動,走る,歩く)もイメージされているが,それには,「苦しい」「つらい」「続かない」などマイナスイメージの語句が多く,健康的なイメージにつながらない傾向がある。
そこで,体重の増減と体脂肪の増減の違いに気付かせることをねらいに,イメージマップにも多く出てきた「リバウンドはなぜおきるか」の課題意識を持たせた。また,「苦しい」等のイメージを払拭するために,簡単で生活に取り入れやすい運動を提案した。
〈ダイエットを中心語にしたイメージマップの例〉 生徒数47 語句総数588
語句 出現数 対象人数比食事制限・減食・断食 37 79%運動 29 62%減量 23 49%単一食品(リンゴ・こんにゃく等) 21 45%マラソン・走る・ジョギング 18 38%リバウンド 16 34%筋トレ・腹筋・ダンベル・スクワット 16 34%薬 11 23%ダイエット食品 11 23%歩く 11 23%(2) 個に応じた有酸素運動
運動の適切な強度・頻度・継続時間を知るために,個人の運動実施状況に応じた有酸素運動時の目標脈
拍数を算出した。
この目標脈拍数の達成を目指した運動強度を体験するために,実際にウォーキングを行った。10分間のウォー
目標脈拍数=(最大脈拍数−安静時脈拍数)×係数+安静時脈拍数
最大脈拍数=220−自分の年齢
レベル 係数2日に1度,汗をかく程度の運動をどのくらいの期間,継続しているか。 5 0.82年以上 4 0.71年〜2年 3 0.6半年〜1年 2 0.53ヵ月〜半年 1 0.43ヵ月未満 ※効果的な運動強度は目標脈拍数の±5%