福島県教育センター所報ふくしま No.27(S51/1976.8) -009/026page
高等学校教材 過酸化水素とヨウ素イオンの反応を用いた反応速度の測定
第2研修部 佐 久 間 善 克
化学IIに対する最近のアンケート調査によると理解困難な内容,或いは生徒が興味を示さなかった項目に多段階反応,律速段階などがあげられている。これらの項目は指導要領の項目の取扱いのところに述べられており,多くの教科書の中で取り扱われている。しかし,生徒の興味がみられず理解されにくいのは.確かに難かしい概念ではあるが,化学Bにみられなかった全く新しい概念なので,今までのところ,簡単に実施でき,しかも,効果のある実験が十分に開発されていないことなどから指導になれていないことも多分に関係していると思う。そうした意味から,これらの項目の効果的な指導法の研究が今後の課題になると思う。
最近は,反応速度の研究に時計反応が多く用いられているが,その中の過酸化水素とヨウ素イオンの反応について多段階反応との関連において考慮してみたい。
酸性溶液中でI - がH 2 O 2 によって酸化される反応は
H 2 O 2 +2I - H + 2H 2 O+I 2 (1)
逐次反応と並発反応(競争反応)の両反応が組み合わさったもので,非常に複雑で,速度式は次のように表わされる。
dx/dt=k 1 (H 2 O 2 )(I - )+k 2 (H 2 O 2 )(I - )(H + ) (2)
しかし,(H + )=10 -3 M/l以下の条件で反応させると,速度式は,第一項のみで表わされることがわかっているので取り扱いは非常に簡単になる。
(1)式に従って生成するI 2 はNa 2 S 2 O 3 を加えておくと,次式のようにすぐ変化してしまう。
I 2 +2S 2 O 2- 3 2I - +S 4 O 2- 6 (3)
S 4 O 2- 3 が全部消費されると,あらかじめ加えておくデンプンと鋭敏な呈色反応を示す。H 2 0 2 溶液とI - 溶液を混合した時から,青色を呈するまでの時間を測定しておけば,平均速度は,ある一定量のI 2 を作成するに要する時間に反比例するので式(4)のようになる。
平均速度=△(I 2 )/△t (4)
各実験で△(I 2 )を等しくすると,(即ち,加えるS 2 O 3 2- のモル数を等しくしておく。)平均速度 (△t)一1となるので△tを測定して平均速度を求めることができる。
今,(1)式の化学反応の速度式が,次の(5)式で表されると仮定する。
dx/dt=k(H 2 O 2 ) m (I - ) n (H + ) p (5)
そして,1つの物質以外の物質の初濃度を充分に大きくして実験を行なう。そうすると,それらの濃度変化は小さいので無視できるので,濃度変化させた物質の次数を決定できる。この方法をくり返してm,n,pを決めていけばよい。
実 験
1 試薬の準備
A 0.01M-KI B 0.5M-KI C-I 0.47M-H 2 O 2 (1×10 -4 M/l 酸性) C-II 0.49M-H 2 O 2 (1×10 -2 M/l 酸性) D-I 0.01M-H 2 O 2 (1×10 -4 M/l 酸性) D-II 0.0096M-H 2 O 2 (1×10 -3 M/l 酸性) E 4.8×10 -4 M-Na 2 S 2 O 3 (0.1%デンプンを含む) 2 方 法
- ホールピペットで,指示された体積のI - 溶液と水をビーカーにとって恒温槽中に入れておく。
- 他のビーカーに,H 2 O 2 の規定量をとり恒温槽に入れる。
- 5分位放置してから両液を混合する。その瞬間からら青色になるまでの時間を反応時間としで測定する。
3 実験結果
1. (I - )と反応速度(25 。 C)
表1,表2をグラフに書くと図1のような結果が得られる。このグラフから、Vと(I - )の関係を考察すると,
表1 (I)(H + =10 -3 M/l)とV \番号 混合の割合 ml 初濃度 M/l t sec. V M / l.sec A H 2 O E C-II (I - ) 0 (S 2 O 3 2- ) 0 (H 2 O 2 ) 0 1 10 0 5 5 5×10 -3 1.2×10 -3 0.123 9.7 6.19×10 -4 2 8 2 5 5 4 // // 12.2 4.92 3 6 4 5 5 3 // // 15.6 3.85 4 4 6 5 5 2 // // 22.7 2.64 5 2 8 5 5 1 // // 45.2 1.33