福島県教育センター所報ふくしま No.27(S51/1976.8) -013/026page
主な手段として,事物の部分から全体を連想する学習の授業研究を実施した。
(2) 授業研究の概要
- 指導方針
- ひとつの事物に対して,ことばを投げかけることによる,事物とことばとのマッチングの円滑化をはかる。
- 与えられたヒントからの連想力を促進する。
- 範ちゅう化のための基準のレパートリーをひろげてやる指導を反復する。
- 部分をみて全体を連想するなどの,概念化をたすけるのに有効な基礎的能力を育てる課題場面を多くする。
- 題材「ものあてゲーム」の例
- 触覚訓練器(自作)を用いての物あて, (9時)
- ことぱの手がかりを加えられての絵カードとのマッチング〜ことばカードとのマッチング〜触覚による手がかりだけでその物の名をいう。
- 視覚訓練器(自作)を用いての物あて, (6時)
- ことばの手がかりを加えられての絵カードとのマッチング〜ことばカードとのマッチング。
- 「10ヒントゲーム」 (3時)
- 授業後の反省
- 導入時で倍ちかくの時間を要した。これは,一方において意欲の強い誘発を期待して「ゲーム化」されている反面,ルール理解力が劣るので,遊びや学級生活の中での先行経験の積み重ねの必要を示していると考える。
- 「10ヒントゲーム」では,10のヒント全部を用いたときは結果が悪く,3個のヒントでの通過の場合が良い。これは与えられた手がかりの保持力の弱さと総合力の弱さの一面を示していると考える。
- 構音障害はあるが表現に積極的なSH児の活動がエスカレートすると本児の行動は逆に静かに沈滞気味になるので,彼独自の役割場面の設定が効果的であると考える。
- カテゴリー化の基準を物の機能面に引きあげる場合,材質・形・類似品等のことばによるヒントの他に,色についても必要な場合がかなりみられた。
- 注意の集中力については成功したときほどたかまり,失敗した直後ほどわるいようにみられた(視線・顔色・表情・吃声などから)
- 視覚刺激のようなもので,しかも消えない状態で与えられているものでも,かなり整理された言語による補助刺激による支援が必要である。
- 総合するための要素となる刺激,特に言語による支援のあとは,それを,文字或は絵で眼前に残しておいてやる必要がある。
- 視覚記銘・聴覚記銘の訓練は,かなり回数多く,他の学習場面でも用意する必要がある。
- 本児の場合,集団で学習する場合,陰性の強化因子は,今の段階では絶対にひかえなければならないし,失敗後のとりあつかいは次回への期待を誘発する設定を必ず設けるべき段階にある。
- 周囲の活動を調整し,通過の予想が本人自身に明らかに予見できるような場面をタイミングよく用意するなどで,以前に指摘されていた不活発性・緘黙性は徐々に改善される見とおしがあるように思う。
7. おわりに
- ITPAはその同一サブテスト内のアイテムによく注目することで,治療プログラム構成に効果的な示唆を多々与えてくれる。
- ここに述べた例は中度精神薄弱児の場合であるが,個人内差に目を向けた指導をしようとするとき,軽度精神薄弱児や,普通学級における言語学習不振児の指導にもかなり有効な検査であると思う。
- 知的発達遅滞児の場合,ITPA適用年齢を超える子どもであっても,MA,SA,CA,などと対比させながら個人内差をプロフィール的にとらえて指導目標,方針を具体化,焦点化するのには,かなり役立つ診断検査であると思う。
- よいテスト法・よいテスト器具は指導や訓練の方法にかなり有効な示唆を与える。(指導方法の選択や指導法の開発・教具の効果的使用に役立つ)
- 脳器質異常を認められた場合,障害の部位等に関する所見まで求め,そのケースにおける大脳の言語メカニズムを考察し,重要な手がかりを発見できるのではなかろうか。
- 治療的指導計画の密度を高め個人内差をプロフィール的にとらえ,その子のニードに合った指導計画によって,その強化をはかっていく指導がなされれば,その子なりの能力を適切に回復し,より発展させることが可能なのではなかろうか。
参考文献
ITPA言語学習能力検査手引 日本文化科学社 ITPAの理論とその活用 旭出学園教育研究所編 日本文化科学社 ITPAによる学習能力障害の診断と治療 SA&WAカーク 三木安正他訳 日本文化科学社 現代のエスプリ97号一知能・その開発と限界 至文堂 学習障害児の心理と指導 日本文化科学社 学習能力の障害 日本文化科学社 西谷三四郎編 講座特殊学級経営 明治図書 精神薄弱児研究97号 日本文化科学社 B児のITPAと脳器質障害との関連 中丸良彦 精神遅滞児の言語能力についての考察 奥村武司 研究紀要No.1, No.2 福島養護学校