福島県教育センター所報ふくしま No.27(S51/1976.8) -014/026page
教育研究法講座研究報告
資料活用による社会的思考力を高める指導
原町市立原町第三小学校 遠 藤 菊 雄
1. 研究の趣旨
(1) 研究の動機とねらい
社会科指導において,資料は常時使用されているがそれが,社会科でねらう能力育成にどの程度効果をあげているものであるかについては,たえず疑問をもちつづけてきた。
それで,この疑問を解明しようとして,学力検査を実施した結果は,次の通りであった。
<表1>知能,学力(社会)偏差値
知能検査 教研式 (50.6) 学力検査 (社会) 教研式(50.7) 知識 45.4 学力 50.2 観点 知識理解 52.0 観察力,資料活用力 50.1 社会的思考・判断 48.5 (2) 問題点
日常の社会科学習における児童の実態からみて,思考力・判断力の面での低調を予想していたが,学力検査の結果でも,やはりこのことが裏づけられた。さらに,資料活用能力の面でも指導上の対策が必要であることがわかった。
もっとも落ちこんでいる「思考力・判断力」について,さらに,この部分の結果をとり出してみると,次の表の通りであった。
<表2>社会的思考・判断 思考の類型 条件思考 関連思考 因果思考 比較 問題番号 (1)(2)(3)(4) (1)(2)(3) (1)(2)(3)(4) (1)(2) 正答率 学級 88 45 81 70 72 69 33 70 63 36 28 70 49 全国 80 37 88 70 68 65 33 85 63 51 48 78 53
発展思考 因果思考 条件 比較思考 (1)(2)(3)(4) (1)(2)(3)(4)(5) (1)(2)(3) (1)(2)(3)(4)(5) 64 58 58 61 55 24 20 16 40 61 45 64 45 49 42 36 49 55 46 51 61 58 29 30 25 57 67 36 57 54 60 65 49 58 以上の表からもわかる通り,思考の類型別では,因果思考・比較思考の落ちこみがとくに大きい。歴史的事実を年表に位置づけたり,社会的事実の因果関係を考察する問題では,歴史的,あるいは社会的事実がつながりのないままに理解されていて,因果関係の思考に欠けている。
また,比較思考では,資料の差異に目をつけて,比較することによって問題解決をはかろうとする学習方法・思考態度が身についていないように思われる。
以上のことから,これを追求してみると,次のような原因のあることがわかった。
(3) 原 因
- 社会的思考力を養う場を意図的に設定して,十分思考させる研究が不足していた。
- 二つ以上の資料を関連づけて考察したり,差異に目をつけて比較することにより,問題解決をはかる思考方法が身についていない。
- 適切な資料を選択準備して,指導過程に正しく位置づける研究が不足していた。
とくに,社会科指導の最終目標である思考力・判断力を育てるためには,指導過程のどこで,何を考えさせるかということを明らかにしておくことが重要であるが,そのためには,裏づけとなる資料の準備と位置づけがたいせつである。
資料の有効な活用によって,児童の思考の高まりを追求することか今後の授業を改善する上できわめてたいせつであることを考えて,この研究テーマをとりあげた。
2. 仮 説
(1) 仮説のための理論
- 資料の指導過程への位置づけ
ア 指導のねらいから最も適した指導の過程に位置づける。
- 教材面の研究をして構造化する。
- 社会認識をあたえるための指導過程の計画と,資料を指導過程のどこに,どんな方法で提示するかを検討して位置づける。
イ 資料の精選とその構造化を考えて位置づける。
- 指導のねらいを達成するのに最も有効な資料を精選する。
- 指導過程の中の資料全体の構造上からの位置づけや機能・役割をはっきりさせる。
- 比較思考
児童によく理解させ,考え方を伸ばすためには比較思考の場面を多く設定してやることが効果的である。比較思考を伸ばす意義は,比較することによって社会的事実や事物の性格や特色を明確にして,社会を正しく見ていく素地を育てることにある。比較思考を伸ばすためには,比較する内容と観点を明確にして,その上に立って児童に考えさせることであ