福島県教育センター所報ふくしま No.41(S54/1979.6) -011/038page

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ですから,kにいろいろな値を与えて,それに対す るこの定積分の値を求めて表にすればよい,という ことになります。ところが,実はこの定積分の計算 は,なかなか一筋なわではいかないのです。正攻法 で攻め切ることができないのです。そこで,ちょっ と思考の方向転換を行ってみます。正攻法で攻め切 れないときは,搦手からとよくいわれます。そこか ら,この定積分を,以下のように攻め切ることがで きました。

 関数e x は, 数式1

のように無限級数に展開されます。この式のxに、

数式2

したがって,1(丸囲み数字)

数式3

となりますから,この右辺の値を計算すればそれで よいわけです。たとえば,k=1のとき

数式4

となり,この右辺の値を求めればよいのです。だが, ちょっと待って下さい。この式の右辺は,実は無限 に続いているのです。一体どれだけの項数を計算す れば,どれだけ正しい値が求まるのか,はっきりし ないので困ってしまいます。

 2(丸囲み数字)の〔 〕の中の無限級数は,正の項と負の項と が互い違いにでてくる級数で,このような級数を交 項級数といいますが,交項級数においては,一般に 次のことが成り立ち,実は,上の問題はきれいに解 決されます。関数f(x)が,次のように,条件Aを みたす交項級数に展開されているものとします。

f(x)=U 1 −U 2 +…+(−1) n−1 U n +(−1) n U n+1 +…

(ただし、条件A:U n >U n+1 n =1,2,…をみたす)

このとき,f(x)≒U 1 −U 2 +…+(−1) n−1 U n

としますと,項打ち切りによる誤差Eは,

E=(−1) n {U n+1 −U n+2 +U n+3 −……}

=(−1) n {U n+1 −(U n+2 −U n+3 −( )……)}

ここで,条件A:U n >U n+1 n =1,2,…より,この{ }の中の( )の値はすべて正になりますから,

{U n+1 −(U n+2 −U n+3 −…}<U n+1

 ∴ |E|<U n+1 ………………3(丸囲み数字)

これは,項打ち切りによる誤差の大きさは,その次 の項の大きさを越えないということを示しています。 したがって,あらかじめ,小数点以下何桁まで正し い値が必要であるかを決めておけば,3(丸囲み数字)の関係から 第何項までこの級数を計算すればよいかがわかるわ けです。交項級数2(丸囲み数字)は,はたして条件Aをみたして いるでしょうか。もし,みたしていれば,項打ち切 りによる誤差の評価が,3(丸囲み数字)によってなされうまくゆ きます。2(丸囲み数字)においてUn−U n+1 との差は,

数式5

と変形でき,結局,U n −U n+1 の正,負は,{ }の値の正,負 によって決まります。{ }の中のうしろ

数式6

と変形され,kは高々5ぐらいまでの値についてわ かればよいのですから, n を大にすると4(丸囲み数字)は1より 小にできます。よって,このとき{ }>0,従っ て,Un>U n+1 となって,ある大なる自然数N以上 で2(丸囲み数字)は,条件Aをみたすことがわかります。簡単の ため,k=1,2,3,4 と整数のときについて 調べてみますと,(※)点=1,2のときは, n ≧1で 条件Aをみたし,k=3のときは, n ≧4で,k= 4のときは, n ≧7で条件Aをみたしていることが わかりますから,2(丸囲み数字)の級数の,これらの範囲の項ま での和をとれば,項打ち切りによる誤差の評価がで きます。

数式7

を用いて,次々に項を求めるプログラムを作り,項 打ち切りによる誤差の大きさが,指定した値よりも 小になるまで加えるようにしました。


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