福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -002/034page

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小学校教材
「物語・小説文」の教材分析の手順
−「白いぼうし」を例として−
教科教育部  半 澤 正 一
1 はじめに
 当教育センターの「小学校国語講座」では,演習として,「文学的文章の教材分析」を行った。教材は,「白いぼうし」(光村・4年上)である。その際,研修者の先生方から,演習やその後の協議の中で,疑問点,問題点として出されたことをもとに,「文学的文章の教材分析」特に「物語・小説文の教材分析」について,二三の考察を試みたい。
2 人物の性格をとらえるには,どうすればよいか。
    白いぼうし        あまん きみこ

「これは,レモンのにおいですか。」
ほりばたで乗せたお客のしんしが,話しかけました。
「いいえ,夏みかんですよ。」
シグナルが赤なので,ブレーキをかけてから,運転手の松井さんは,にこにこして答えました。
「ほう、夏みかんてのは,こんなににおうものですか。」
「もぎたてなのです。昨日,いなかのおふくろが,速達で送ってくれました。においまでわたしにとどけたかったのでしょう。」
「ほう,ほう。」
「あまりうれしかったので,いちばん大きいのを,この車にのせてきたのですよ。」
 シグナルが青に変わると,たくさんの車がいっせいに走りだしました。その大通りを曲がって,細いうら通りに入った所で,しんしはおりていきました。

 「白いぼうし」の第1の場面では,主人公の松井さんの性格をとらえて置くことが,学習を進める上で非常に大事なことと思われる。したがって,研修者の先生方も,本時の目標として,「松井さんの人柄を読みとる。」を挙げておられる。しかし,第1の場面には,地の文にも,会話文にも,松井さんの内面を直接語ることばは見当たらない。だから松井さんの性格をとらえるといっても,必ずしも容易ではない。こんな場合は,地の文や会話文をもとに,その人物の簡単な「調書(ノート)」を作ってみるとよい。
○年齢
○職業 タクシーの運転手
○出身地 母親から夏みかんを送ってもらっているので
       南国育ちか?

 この調書によれば,年齢は不詳だが,職業がタクシーの運転手であることがわかる。すなわち,松井さんは,大臣とか,将軍とか,あるいは王様といった特殊な人物ではなく,我々の身の回りのどこにでもいるごくありふれた人物だということだ。また,母親から夏みかんを送ってもらっていることから,都会育ちではなく,地方出身の人なのだろう。しかも,それは,東北や北陸ではなく,夏みかんが取れる南国であろう。想像をたくましくすれば,都会ずれをしていない,どこかまだたぶんに田舎育ちのじゅんぼくさを残している人かも知れないし,南国育ちらしい明るく開放的な性格の人かも知れない。
 その人の発言や行動は,その人物の性格の具体的なあらわれととらえれば,「もぎたての夏みかんのにおいまで届けようとして,速達で送ってくれた母親の気持を素直に喜んで話している」ことから,善意あふれる,やさしく,温かい,そぼくで,素直な性格な人と松井さんをとらえることができるだろう。
分析の手順
(1) 人物の内面を直接語る言葉を,地の文や会話文から見つける。
(2) 地の文や会話文からわかる事実をもとにその人物の調書を作る。
(3) 人物の年齢・身分・容貌・出身などの外面的条件を整理し,そこから性格を類推する。
(4) その人物の発言や行動を整理して,そこからその人物の性格を類推する。

3 人物の心理をとらえるには,どうすればよいか。
 事件の進展と共に登場人物の心理は起伏する。
 登場人物の発言や行動は,その人物の性格の具体化であったように,心理も性格のあらわれである。そして,発言や行動は心理の具体化である。
アクセルをふもうとしたとき,松井さんは,はっとしました。
(第2の場面)

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