福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -003/034page
この場面で松井さんが,「車道に近い道端に落ちている帽子をひろいあげ,その中のちょうを逃してしまう」のは,「おや,車道のあんなそばに,小さなぼうしが落ちているぞ。風がもうひとふきすれば,車がひいてしまうわい。」という心理がはたらいたためであり,そのような心理を生じたのは,松井さんのやさしい善意に満ちた性格によるものであろう。しかし,松井さんが,いかに善意のある人であっても,路上にその白い帽子を見かけなければ,このような行為はしなかったのであり,人物の心理は,このようにその人物の置かれている状況に左右される。したがって,よく教室で行われる「その人物の身になって,その人物の気持を考えてみましょう。」という発問は,非常に大事な発問だといえよう。
また,人物の心理は,地の文や会話文からもとらえることができる。この時の松井さんの行動を逆に追ってゆくと,
松井さんは,その夏みかんに白いぼうしをかぶせると,飛ばないように,石でつばをおさえました。
(第2の場面)○ 「〜松井さんは,その夏みかんに白いぼうしをかぶせると,飛ばないように,石でつばをおさえました。」
ようになる。「松井さんが白いぼうしの下に夏みかんを置いた」のは,「せっかくのえものがいなくなっていたら,この子は,どんなにかがっかりするだろう。」という気持からだということがわかる。
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○ 「何を思いついたのか,急いで車にもどりました。運転席から取り出したのは,あの夏みかんです。」
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○ 「『せっかくのえものがいなくなっていたら,この子は,どんなにがっかりするだろう』」
また,人物の心理は常に一定ではない。刻々の場面の進展とともに変化する。例えば,「白いぼうし」の第4の場面における松井さんの気持は,○ 男の子とお母さんの気持を想像しているとき
では,それぞれに変化していることがわかる。
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○ 女の子が消えてしまったとき
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○ ちょうたちのシャボン玉のはじけるような,小さな小さな声が聞こえたとき
分析の手順
4 構成をとらえるには,どうすればよいか。
(1) 人物の置かれた状況を整理し,その状況に置かれた人物の身になってその人物の心理をとらえる。
(2) 地の文や会話文の中に,人物の心理を述べている部分を見つける。
(3) 発言や行動から,その人物の心理を抽象化し,追求する。
(4) 人物の心理は刻々変化するものと考え,心理の起伏を追求する。
「物語・小説文」の学習では,ただ漫然と筋を追うだけに止まってはならない。一つ一つの事件の意味、事件と事件とのつながり合い,重なり合い,すなわち,「構成」を考えながら読むことが大切である。「構成」を調べる場合は,時間の経過,場所の変化,人物の出入りなど,いわゆる「5W1H」に留意して読むのがよい。
「白いぼうし」の場合は,幸い作者が,四つの場面に区切ってくれているので,その構成をとらえることが容易である。しかも,その四つの場面は,時間の経過,場所の変化,人物の出入りなどによって設定されているので,それを児童にとらえさせれば,「物語・小説文」の構成について,児童に理解させるのに便利であろう。
「白いぼうし」の構成とおおよそのあらすじは次のとおりである。
したがって,各場面の役割は,第1の場面が,主人公の松井さんの性格とライトモチーフの夏みかんの提示,第2の場面では,その松井さんの善意が引き起す行為,第3の場面が,ちょうの化身の小さなかわいい少女の登場,第4の場面が,松井さんの空
- 第1の場面(松井さんと夏みかん)
- 松井さんは,ほりばたで紳士のお客を乗せる。車の中には,夏みかんの香りが漂う。
- 第2の場面(松井さんの善意による行為)
- 松井さんは,道端に落ちている帽子を,車にひかせまいとしてひろいあげ,その中のちょうを逃がしてしまう。そして、その代りに夏みかんをぼうしの下に置いておく。
- 第3の場面(小さなかわいい少女の登場)
- 松井さんが車にもどると,後ろの座席に小さなかわいい女の子が座っていて,菜の花横町へ連れていってと言う。そこへ男の子が,お母さんとやってくると,女の子は「早くやってちょうだい。」と言う。
- 第4の場面(松井さんの空想とちょうたちの会話)
- 松井さんが,男の子の驚く様子を想像しているうちに,女の子が後ろの座席から消えている。
車を止めて外を見ると,ちょうの会話が聞こえてくる。