福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -004/034page

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想とちょうたちの会話にみられるファンタジックな世界となるであろう。したがって,その構成は,漢詩絶句の起・承・転・結にもなぞらえることができる。特に,第3の場面は,ちょうの化身と考えられる不思議な少女を登場させることにより,物語は,それまでの現実的な世界から,一転してファンタジックな幻想の世界へと転じていることに注意したい。
分析の手順
(1) 「5W1H」をもとに,大体のあらすじをとらえる。
(2) 一つ一つの事件の意味を吟味する。
(3) 部分と部分のつながり合い,重なり合いに注意して,部分と部分の関係をとらえる。
(4) 事件の展開の中で,大きく変化しているところをとらえる。
(5) 全体を一貫しているものをとらえる。
5 主題をとらえるには,どうすればよいか。
 作品全体から訴えてくるもの,すなわち作品の「主題」をとらえることは,「物語・小説文」の学習の最終的な目標だともいえる。「主題」をとらえるには,まず最初に読み終えた時の印象・感動,初発の感想を大切にしたい。しかし,いつまでも,印象や感動に止めて置いてはならない。その印象や感動は,一体作品のどの部分から生じたものなのか,分析・検討してみることが必要である。さらに,それらの部分が,つながり合い,重なり合いながら,作品全体としてどのようなことを訴えようとしているか,作品全体の構成をふり返りながら,しだいに明らかにしてゆくことが大切である。
 「白いぼうし」の主人公,松井さんの性格は,先にも確かめたように,善意とやさしさにあふれた性格である。その善意とやさしさ故に,「道端に落ちている帽子をひろい上げ」たり,「帽子の中のちょうを逃がしてしまっ」たり,「ちょうの会話を聞い」たりしたのであった。松井さんの善意とやさしさは,全編を通じて松井さんの具体的な行為となってあらわれている。そして,この善意ややさしさは,松井さん一人のものではない。松井さんをとりまく人物,紳士・松井さんのおふくろ・男の子・そのお母さん・ちょうの化身の少女にも共通した性格である。いわば,松井さんとそれをとりまく人々は,善意とやさしさに満ちあふれた世界を形成しているのであり,作者は,ともすれば現代社会では,忘れられ,見失われがちな善意ややさしさの大切さを,訴えているのであろう。
 また,この作品の重要なモチーフとなっている夏みかんの香りのさわやかさ,色のあたたかさは,そのような善意とやさしさの世界を象徴的に表していると思われる。
 一方,第3の場面で,ちょうの化身と思われる少女を登場させ,物語の世界を幻想の世界に転じていることも見逃せない。
 以上を総合すれば,この作品の主題は,「松井さんとそれをとりまく人々の善意とやさしさにあふれた幻想的な世界」とまとめることができよう。
分析の手順
(1) 初発の感想を大切にして,大体のあらすじをまとめる。
(2) 作品の部分,部分の意味を考え,その部分が作品全体で果している役割を考える。
(3) 部分と部分との関係をとらえる。
(4) 構成上大きく変化しているところ,クライマックスをとらえる。
(5) 作品全体が一貫して訴える中心思想をとらえる。
6表現の特色をとらえるには,どうすればよいか。
 表現の特色をとらえるには,その作品の語彙,構文,文末表現,文の長さ,比喩などについて,細かに観察することにはじまる。そして,その表現が,作品の内容とどのようにかかわっているか吟味する。
 「白いぼうし」の表現の特色は、次のとおりである。
○ 色やにおいなどを表す感覚的表現
 ・すっぱい,いいにおいが,風で辺りに広がりました。
 ・まるで,あたたかい日の光をそのままそめつけたような見事な色でした。
○ ユーモラスな表現
 ・「たけやまようちえんのたけのたけお」
 ・ぽかっと口をOの字に開けている男の子の顔が
○ 巧みな比喩
 ・やな木のなみきが,みるみる後ろに流れていきます。
 ・シャボン玉のはじけるような小さな小さな声でした。
分析の手順
(1) 語彙,構文,文末表現,文の長さ,比喩などについて,細かに観察する。
(2) とらえられた表現の特色と作品の内容とのかかわりを吟味する。

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