福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -010/034page
ます。この考えによると,生徒は人間として自己の安全が保障されれば愛情と所属の欲求へと移り,愛情と所属の欲求が満足されれば自己実現(学習意欲)へと立ち向かうというわけです。
これが学級の中で具体化されるためには,受験・合格が唯一だという硬直した価値観から解放されることが必要です。そして,学校経営・学級経営は,生徒の能力・適性・興味・関心に応じて一人ひとりの生徒を伸ばし,一人ひとりに満足を与えることを目標にしなければなりません。藤野氏の随筆に登場する小山先生は,学級の子ども一人ひとりに対して特技や得意をもので尊称ともあだなともつかない呼び名をつけていたといいます。「算数の天才」「書き取りの名人」「画伯」「トンチ博士」「勤勉家」といったように。できない子どもほどよい名をもらっていて,ひとり残らず自分の得意をもので自信を持ち,学級全体の雰囲気も活気にあふれ,勉強をいやがる子どもはいなかったということです。3 ほめてやる機会をつくる
ハーロックは,「叱る」より「ほめる」方が学習意欲は向上するということを実証しています。
Aクラス(統制)─→ほめも叱りもしない
Bクラス(称賛)─→ほめる
Cクラス(叱責)─→叱る
Dクラス(無視)─→無視する
(A,B,C,Dクラスとも能力はほぼ同じ。)
結果は,Bの称賛クラスは成績が向上し,叱責したクラスは最初の1回目は向上したがそれ以降は成績が下がった。A・Dクラスは変化がなかった。また,優秀クラス,普通クラス,成績不振クラスに対して実験した結果では,成績不振クラスではほめたとき成績が大きく向上し,次は普通クラス,優秀クラスは一番伸びが低かった。逆に,叱ったときには優秀クラスが一番成績が向上したということです。このことから,成績の振るわない生徒に対して,特にほめる機会を多くつくっていきたいものです。
また,今の生徒は普通のことあたりまえのことができないといわれています。ですから,ほめられない学校生括を送っている生徒が大部分だといえます。それに加えて,われわれはほめるより注意したり叱ったりすることの方が多いようです。生徒のよさをほめてやる気を起こさせましょう。4 望ましい学級集団の中で育てる
一人ひとりの学習意欲は,学級集団の雰囲気によって大きな影響を受けます。つまり,学級集団が明るく許容的であると,集団に属する生徒の学習意欲は促されるということです。学習意欲を目指す学級づくりとしては,
○ 学級内に肯定的を人間関係ができている
○ 学級内で一人ひとりが生かされている
○ 学級への帰属性が認められる
○ 授業にすぐれた集団協力学習法がとられている
などがあげられます。5 その他に学習意欲を育てるには 〇成功感を経験させる
〇自分に合った目標を与える(習熟度別学習)
〇自己向上の充実感をもたせる(伸長度評価)
〇自己の有能感を発見させる
〇スポーツによって意志力・耐性をつける。
〇自己選択による自律感をつくる
〔問い 4〕 「学習意欲」を育てる教師の資質はどのようなものでしょうか。
〔答え〕 学業指導の面から学習意欲を育てるには,教師は生徒との人間的触れ合いができる資質を持つことが必要でしょう。生徒の求めている理想的教師も「自分たちに接してくれる」ことを一番にあげています。反抗し虚勢を張りながらも,心の底では教師の愛情を求めているのです。その他に,学習意欲を育てる教師像を紹介します(一部前と重複)。
○ 生徒の可能性を信ずることができる教師
○ 生徒の心や感情を大切にできる教師
○ ユーモアのある教師
○ 生徒に生きがいを与えることができる教師
○ 生徒の心を開くことができる教師
○ 間違いを生徒の前であやまることができる教師
○ えこひいきをしない教師
○ 扱いにくい生徒を排除しない教師
○ 生徒とともに変容の努力をしている教師
参考文献「勉強ぎらいをつくらない授業」 品川不二郎編