福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -011/034page

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教育相談

心を病(や)むからだ−心身症−

教育相談部  鴨 原   弥

1 はじめに

 最近,「医者をあちこちまわって診(み)てもらった結果,一時的に症状が無くなったり,軽くなったりするのですが,すぐに同じようを症状がでてくるのです。」という訴えをもって来所されるケースが少しずつ増加している。その主なものは,腹痛があり,下痢と便秘をくり返す。強くなったり弱くなったりするが,いつも頭痛がする。肩こりがはげしく,ひどい時は,目までひきつってくる。急に立ち上がると目まいがして,倒れそうになる等,いわゆる心身症的訴えを持ったものである。また相談件数の約50%をしめる登校拒否でも,その経過中に,心身症的を徴候を明確に示す時期のあることも見のがせない。
 ところで心身症については種々の定義がされているが,
 広義には, 身体的原因によって発生した疾患でもその経過に心理的因子が重要を役割を演じている場合
 狭義には, 身体症状を主とするが,その診断や治療に心理的因子についての配慮が特に重要を意味を持つ病態

ということになり,従来,狭義の定義が多く用いられており,要約すれば,
 心理的刺激(ストレッサー)→身体反応
となる。

2 代表的な心身症
(1)循環器系  心臓神経症,一部の高・低血圧
(2)呼吸器系  過呼吸症候群,神経性咳嚇(がいそう)(せき)
(3)消化器系  過敏性大腸症候群,神経性食欲不振症,腹部緊満症
(4)内分泌系  肥満症
(5)神経系  心因性頭痛,筋緊張性頭痛,自律神経失調症
(6)泌尿器系  夜尿,神経性頻尿
(7)筋肉・骨系  筋痛症,書痙(けい),痙(けい)性斜痙(けい),チック,外傷性疹(とう)痛
(8)皮膚系  神経性皮膚炎,円型脱毛症,多汗症,疣贅(ゆうぜい)(いぼ)
(9)耳鼻咽喉(いんこう)科系  メニエール症候群,咽喉頭部異物感症,乗物酔
(10)眼科系   眼瞼(けん)けいれん
(11)産婦人科系  月経困難症
(12)小児科系  起立性調節障害,心因性発熱,夜驚症
(13)口腔科系  ある種の口内炎,咬(こう)筋チック

3 心身症発症のメカニズム
(1)育児と心身症
 子どもの成長を「脳の成長」の上から見ていくと次の四つのはたらきに要約して見ることができる。
(1) 生きている−脳幹・脊髄系−生命の維持
(2) たくましく生きてゆく−大脳辺縁系−本能行動・情動行動
(3) うまく生きてゆく−新皮質系−適応行動
(4) よく生きてゆく−新皮質系−創造行為
 (1)〜(4)の中枢が良く発達し,はたらいてこそ,一個の人間として,よりよく生きて行くことができる。
ところが(1),(2)は生まれたときからかなり良く働いていて,単に生きているだけならば問題がないのであるが,(3)は,親と子のかかわり,即ち育児等を通じての好ましい体験(必ずしも良い体験を意味しない)をより豊かに詰めこむことでつくられる。従って,問題行動の多い子は,この部分が充実していないといえる。(4)は,(1)〜(3)の発達と充実したはたらきの基盤の上につくられるもので,(1)〜(3)のはたらきの弱いものに,(4)を期待するのが無理なことは当然である。
 人間がより良く生きて行くためのたくましさは,つくられるものであり,ここに人間独自の育児のむずかしさが存在するのである。さらに,(1)〜(4)のはたらきは,自律神経系と内分泌系という二つの系のはたらきを仲介にして,からだを調節することにをるので(3)の適応行動の中枢に詰めこまれた,育児,


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