福島県教育センター所報ふくしま No.54(S56/1981.12) -012/034page
しつけ,扱い方や生活体験のまずさ等は,身体上に適応行動のつまずきとして表現される。(図1)
(2)ストレス反応としての自律神経症状 心理的要因によって現れるストレス反応として,多く見られるのが自律神経症状で,これがいわゆる不定愁訴であり,一定のまとまった病気としての症状を示さず,だるさ,つかれ,肩こり,動悸(き),息切れ等,ばらばらに症状を自覚している状態である。
不定愁訴のパターン(図2)
従って,不定愁訴があって,それが次々に組織化され,さまぎまの病態を示す様になるのであるが,心身症の場合,精神・身体的反応として組織化されるので,現代医学の中ではあつかいにくい面を持っているともいえる。
3 事例 ひどい肩こりに悩むA子
(1)概要
高校へ入学して間もなく肩こりを自覚するようになり,それが日増しにひどくなってくる。ひどい時は肩だけでなく,全身がしびれたようになり,目もひきつった感じになる。五,六箇所整形外科に受診したがあまり良くならない。一応,薬は飲んでいるが,あまり効果が無い。レントゲン検査等受けたが異常はなく,そのために,学校の欠席が多く,成績があがらず困っている。
(2)家族関係・生育歴など
父は,50才の公務員で,仕事熱心。職場での信用が厚い。反面家庭においては,あまり目立たない存在である。母は,45才で主婦専業。こまごまとした所に良く気のつく,やさしい人である。A子は,高3で一人っ子。どちらかというと母親似のやさしい子であるが,家のこと,友達のことなどを大変気にする性格である。
(3)諸検査から見たA子
YG性格検査は,E類型であり,特に抑うつ性,非協調的,神経質,思考的内向などの因子が大きい。
九大式エゴグラムからは,子供の自我のアンバランスが見られ,常にまわりを気にし,自己を自由に表現できない状態にあることがうかがえる。
SRQ−D(東邦大) うつ状態チェックリストによると,かなり得点が高く,見かけ上明るくしていても,心理的なうつ状態の高いことがうかがえる。
CMI健康調査表からは,肩こり,便秘,下痢,耳鳴り,生理不順等,緊張がもとになって生じる身体症状と,環境,特に対人不適応,過敏,怒りっぽさ等が強く認められる。
以上から,周囲を異常に気にしながら生活しているが,性格的に非協調的で神経質を面があり,うまく適応できず,そのための身体症状と考えられる。
(4)諸検査から見た親
親子関係診断テストによると,父親の溺愛,母親の期待過剰,養育態度の不一致などがうかがわれる。 九大式エゴグラムからは,父親の周囲を気にせずきびしいことをいう点と,母親のいつも周囲を気にしているやさしすぎる自我が感じられ,ここにも不一致があらわれている。
(5)指導
両親で良く話し合い,一致した態度で子供に接し,物事の表面にとらわれず,本質を見ることのできる自我の成長を援助するように指導すると共に,本人には,自律訓練を実施し,筋電図等を観察させながら,カウンセリングを続けた結果,肩こりが軽減すると共に,それをあまり気にしか、生活態度を親子共身につけることができ,約3か月で相談を終了した。
参考文献
人間であること 時実利彦 岩波新書
心身症の話 石川 中 誠信書房
心身症 久徳垂盛 第三文明社