福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -005/038page

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中教材

「力のはたらき」の学習についての一考察

科学技術教育部  村山 正之


1.はじめに

理科第1分野の「力のはたらき」は第1学年で学ぶ物理的領域である。小学4年でてんびん,小学6年でてこを学んだあとこの章に入るのだが,ここではじめて「力の概念」を把握させなければならない。「力」は形のあるものではないので生徒一人一人の頭の中にそのイメージを具体的に形作って行く必要がある。しかし,中学1年の段階12才,13才の年齢では,その身体的・精神的発達段階の差と同様に, 抽象的な量 の理解は生徒によって大きな差異がある。
このような抽象的な量は,特に物理的領域に現われてくる。2学年では,電圧・抵抗・熱量・電力.3学年では,仕事・エネルギー,仕事率など目白押しである。このような量をどのように指導して行ったらよいかは,いつも我々を悩ませている古くて新しい問題なのである。
これらの量のなかで特に物体にはたらく力について大学の教育学部の学生がその基本をどの程度理解しているかという調査や研究報告をときどき目にするが,中学1年以前の理解度のままであるものが非常に多い。極端なことを言えば,中学高校で学んだはずの力についての概念やイメージは一部の生徒を除いて何も残っていない…いやはじめからその概念やイメージは持てなかったのだろう。これは我々の教育が理科(物理的領域)的専門的感覚に固執し,抽象的な量を具体的なものでイメージ化して捉えさせる工夫が足りなかったのではないかと自省しているこのどろである。

2.力の大きさはまずおもりを用いよう

 力は.物体の形を変えたり,運動のようすを変えたりするはたらきをすると教科書では表現されている。これは正しいのであるが,身のまわりのものには,力を加えても変形が目に見えないものもあるし運動のようすも変わらないものがたくさんある。しかも運動のようすが変わるとはどのようなことなのかも学んではいない。運動の法則を背景にして指導することは大切だが,運動の法則から出てくる結果をはじめから教えるのはどうであろうか。
 そこでまず力の大きさを直接実感できるのはおもりであろう。この陳腐な物体は,視覚からも手に持った感覚からも力の大きさと向きを感じ取ることができる。
 力の大きさを測るとき.我々は何の抵抗もなくばねを用いるが,生徒にとってはそれはど簡単ではない。なぜなら,ばねは,加わった力による変形をもとにして考える道具なので,力の大きさが間接的にしかわからないからである。

力の大きさを示すには ・・・・ おもり
 
おもりで表現できないときは ・・・・ ば ね

3.点から面へのギャップ

2力や3力のつりあいのあと圧力の学習に入るところは,1点にはたらく力から急に面にはたらく力に入るので思考の飛躍があり,生徒はかなりとまどいを感ずる部分であると思われる。圧力については,面を垂直におす力という注釈がつくしそれ以前にはほとんど引く力を中心に力のつりあいを取り扱っている。また圧力の伝わり方については,さらに,とじこめられた液体の一部に加えられた圧力という条件がつき,そのあとに,とじこめられていない液体が登場し,水の深さと水の圧力の学習と続いてくる。
 点にはたらく力から面にはたらく圧力に移るときのギャップと,種々の条件がついている圧力の学習について,よく考える生徒ほどその思考過程の一貫性になにかしっくりしない感じを抱いているのではないか,そのことが理料に対する興味を失わせる遠因になってはいないか心配である。


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