福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -008/038page

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教育相談

教育に関する人間学的考察  その3

「感化」について

教育相談部 海野 和夫


1.人間学と教育

(1)人間学のテーマ
 人間学とは人間理解と人間形成に関する学問である。人間学は古くから哲学の一部門として研究されてきたが,最近では人間についての経験的な学問,すなわち生物学,医学,人類学,心理学,そして教育学などにも範囲を広げ発展してきた。
 現代の人間学のテーマは,細分化し深化の一途をたどりつつあるこれらの学問の成果を,人間の生活に真に生かしていくよう,人間を原点として総合的にとらえていくことである。
(2)人間学の方法と教育
 人間学は研究の対象をつねに人間全体の枠の中でとらえていく。教育に関して述べれば,教育に現れる種々の現象が人間の全体的な理解のために何を意味しているのかを問うのである。
 これを解明する方法は,教育の中に現われていること,またおのずと現われてくることを観察して記述していく方法,すなわち現象学であり,解釈学である。


2.教育と人間関係

(1)教育の必要性
 多くの現象から明らかであるように,人間がその生を充実させるには,子供の段階が必要である。それは充実した子供の段階でなければならないことも明白である。
 子供には教育が必要である。人間は「初めから教育に従い,教育を必要とする存在」(O.F.ポルノー,「人間学的にみた教育学」)なのである。
(2)教育と人間関係
 教育には,教育者と被教育者との「教育的な関係」が必要である。この関係が教育的人間関係である。
 現象的にみれば人間関係と称されることの種類は多様であるが,これをよく観察すれば,「社会的な人間関係と人間的人間関係」(高瀬常男,「教育的人間学」)と類別できよう。前者は名も知らぬ同志の「私とそれ」の関係である。これに対して後者は出会いとしての人間関係である。他者は「それ」としてではなく,「相手」として存在する。教育的人間関係はこの人間的人間関係である。人間的人間関係は一方から他方への影響性をもつ関係である。その過程の一つが「感化」である。


3.感化

(1)感化とは
 感化とは「他の影響を受けて心が変わること」(広辞苑)である。教育における感化現象とは,「教育実践のうちにおいて,教育者,被教育者がともに,その直接体験において,自己の成長が可能になったという人間関係の一様相」(正木 正「道徳教育の研究」)と定義されている。
 感化は,「教育的人間関係の根源的なあり方を示すもの」(高瀬常男,同上)であって,模倣,同一視,感情転移などの概念のみでは解明しつくされない「人格の深奥の中核領域において成立可能な現象」(正木 正,同上)である。そして,これにはエイジング(aging)とモデル(model)についての理解が必要である。
(2)エイジングとモデル
 エイジングとは,もともと年をとっていくことの意であるが,教育に関する語義では単に物理的に年を重ねることではなく生涯にわたる生の過程におけるパーソナリティの発達や変化を意味している。これは,生涯にわたる生の過程を,乳児期,幼児期,児童期,思春期,青年期,成人期などと区分すれば,人はそれぞれの時期にその時期独自の行動様式を学習し全体としてのパーソナリティの発達や変化をもつということである。
 人はみなだれでも生の充実を望んで生きている。そのためにはパーソナリティの適切な発達や変化


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