福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -009/038page
が必要である。パーソナリティの適切な発達や変化のためには生の過程の各時期に応じ,適切に取り入れることができる適切なモデルが不可欠である。
モデルは二つの側面に分けて考えるのが一般的である。一つは「手本」(「見本」,「範型」ともいう)であり,もう一つは「導きの星」である。
手本は子供にとって父母,兄姉,その他の家族,教師などである。子供がこれらの人と「出会い」,これらの人々の言葉,行動,態度などを,向上的理解をもって自分のそれらに取り入れて,自分の生の指針とするものが導きの星である。
そして,出会いの成立のためには,「共感」(empathy)が必要である。教育における共感とは,教育者と被教育者とが音叉が同じ波長で共鳴するように心の琴線でふれあうことである。 教育者は感化力をもたねばならない。それはモデルとしての力量と共感能力である。
4.教育者の感化力の現象的理解(1)授業観察
最近観察した3人の教師の授業を分析して教育者の感化力についての現象的理解を試みる。授業と授業者は次の通りである。
・ 小学校4年 社会料 A教諭(男子,38才)
・ 中学校2年 国語料 B教諭(男子,40才)
・ 高等学校2年 物理 C教諭(男子,25才)
1 ボディ・イメージ
2 授業の終始の時刻
定刻。A教諭「子供のいる時間は教室を離れない」 B教諭「時間を守ることは節度,規律を守ることの原点。それに私が生徒の自由な時間を奪う権利はない」 C教諭「教師も学級のメンバーの一人だ。時間を共有する」
3 挨拶
・ 小学生―――全員着席したのを確認して,社会科の係が「正座」,「礼」の号令。次いで「これから・…という課題について学習を始めましょう」「ハイ」「ウン」「ヨシ」など反応が多様。
・ 中学生―――日直の「起立」。約5秒の不動の姿勢の後,「礼」。B教諭が本時の学習計画を簡潔に述べたあと,日直の「着席」。
・ 高校生―――C教諭の入室とともに素早く着席。会釈。C教諭が本時の計画を。その間約20秒。
3 導入
いずれも挨拶とともに導入が終了しているが,「何をするのか」が正確に理解されている。したがって学習意欲にダレがない
4 説明
簡明でわかりやすく,面白い。資料を適切に使う。「エー」「アー」「ウー」がない。知識の量が実に豊富で,事実を正確に伝えている。
5 発問
何を尋ねているのかが明確。一度に一つの質問。必ず語尾が「か」。同じことをくどくどと聞かない。答に対して「なぜ〜か」
6 指示
「〜して下さい」ではなく,「〜しなさい」である。そして3人とも説明,発問,指示の区別が明確である。
7 板書
実にゆっくりで丁寧。教師の書く速さに合わせてノートをとることができる。
8 教師の立つ位置
・ A教諭一全体に話しかけるときは中央。子供たちの話し合いのとき,前方入口の所へ。「一生懸命になると子供たちは先生に話しかけてくるようになる。1対1の授業に陥る。私が話す場所と子供に任せる場所を区別する」
・ B教諭―――常に教室の中央。等距離を保つ。
・ C教諭―――説明などのときは必ず中央。机間巡視で戻るとき後ずさり。決して生徒に背を向けない。
(3人とも見事なまでに「公平」である)