福島県教育センター所報ふくしま No.75(S61/1986.2) -010/038page
9 教師の感情表現
・ A教諭「そう。そのことが大切だと思うんだね。その人の立場にたったすばらしい考えだよ」
・ B教諭「そうか。あなたはそのように考え,〜したいんだね。そんな考えができるなんてすてきだなあ」
・ C教諭「(誤答に対して)ほう。何を根拠にそんな考えが浮かんだの」「よしわかった。そうすると君の考えは…ということなんだね。「でもね,私は――という考えなんだがどうだろう」
(子供の発達段階に応じて,感情を受容し,ほめ引き出し.承認している。また共通して,「できないのか」「わからないのか」「駄目だ」などの子供を否定する言葉が全くない)
10 教材の取り扱い
学習内容が精選され,一時限の学習事項が非常に少ない。練習が多い。本時のねらいが達成されている.余談も多いが本時の教材に結びつく。
11 個に応じた対処
・ A教諭−私のモット―はえこひいきの公平だ。成績の振るわない子供には時間をかけ,能力の高い子には自分の頭と手を使わせる.
・ B教諭一中学生のこの時期になれば,特に必要がある場合を除いて挙手は必要でない。挙手がないと.生徒の表情や態度をよく見つめることができるから,かえって一人一人によく対応できる。
・ C教諭−授業終了後,誤答のあった生徒の所へ近づき,説明,再質問した.正解のあとお互いに顔を見合わせ,ほほえみを交わし合った。
12 ふれあい
・ 教師の言動の一つ一つに子供たちの.うなずき,歓声,驚嘆,沈黙などの反応がある。
・ なごやかであるが,緊張感がただよっている。整然としている。
・ 子供自身の自己規制力が常に働いている。
・ 一斉授業の中に,眼が合う,話しかける,答える,ほほえみを交すなど,教師と子供との1対1の親密な関係が随所に出現する。
・ 子供たちの発言の声が大きい。誤答に対し,「う−ん」「は一っ」などのため息で応えている。
・ 子供たちから信頼され,尊敬されている。
(2)感化の成立
教育者の感化力は授業場面でこそ発揮されねばならない。3人の教師の授業から集約できる感化の成立の要件は次の通りである。
・ 教師が子供と初めて出会い.いくつかの交流を経て不安や緊張から解放され,子供との親近感を覚え.心地よい印象を与える自覚をもつ。
・ 教師が子供との親近感を基盤にして.自らの教育効果が子供に及んでいることを確かに感じ,安定感をもつ。
・ 教師が子供に対して自己開示し,子供も自分の胸に飛び込んで釆ているという喜びを感じ,さらに教育活動への意欲を盛り上げる。
・ 教師が子供の成長への力を信じ,同時に子供からも教師としての力量を信頼されているという両者の合一の感情を味わう。
・ 教師が教育者として子供の信頼に応えるため自己研修に励み,さらに自己実現へと向かう。
5.教育者であるために
感化はよい教育を実場する要諦である。教師が真の教育者であるためには,人間を育てる自らの感化力について意識し,問い直し,絶えざる向上心をもってそれをみがくことが必要である。
そのためには,教師自身もまた身近に教育者のモデルを見つけ,手本として取り入れ,導きの星とする感動的体験を日常的に数多く積極的にもつことが大切である。エイジングを重ねた教師には若き教師のモデルとしての自覚と役割が期待されている。そして,若き教師には学びへの謙虚さと感謝の念が要求されるであろう。
<参考文献>
・「人間学」J.カスタニエダ,井上英治編 理想社
・「人間学的にみた教育学」O.F.ボルノー
玉川大学出版会
・「教育的人間学」 高瀬常男 金子書房
・「道徳教育の研究」 正木 正 金子書房