福島県教育センター所報ふくしま No.93(H01/1989.11) -017/038page
生徒指導・教育相談実践講座
あなたもカウンセラー
_家族カウンセリングを必要とする児童生徒_教育相談部 阿部 貞夫・赤塚 公生・遠藤美代子
前号では,「非社会的行動を持つ児童生徒」ということで,「腹痛を理由に休みがちになってきた中一男子」の事例をご紹介いたしました。本号では,「家族カウンセリングを必要とする事例」として,ある中学校での指導事例を紹介します。学校,あるいは教師が,家族にかかわることがどこまで可能なのか,これはなかなか微妙で困難な問題を含んでいます。しかし,避けて通れない重要な問題であることも確かです。
ここでは,家族カウンセリングの考え方を指導援助に活用して成功した事例を,“読み物風"に紹介いたします。(なお,人名はすべて仮名です)
第91号集団で規則約束を破る女子中学生
第92号腹痛を理由に休みがちになってきた中一男子
第93号家族カウンセリングを必要とする児童生徒
第94号集団理解と集団指導
早苗の場合・・・・・
ー両親へのかかわりが不登校から立ち直らせた事例
放課後の職員室で生徒がすっかり帰ってしまって,がらんとした土曜日の午後の職員室で,圭子先生は一人仕事をしています。中体連の引率が終わったと思ったら,机の上は,書類や先生に出した課題,提出物の山です。「きちんと見てね,先生」なんて書いてる生徒もいて,息がぬけません。
和田圭子先生一A中学校で国語を教える独身の先生で,さっぱりとした性格と分かりやすい授業で,生徒にも同僚にも大変人気があります。
「まだ,いらっしゃったんですか」声のする方を振り向くと,佐藤先生が立ってました。部活の指導で残っていたのか,「疲れたなあ」と自分の席にどっかと腰をおろしました。
「4月に転校して2年に入ってきた,ほら,北川っているでしょ。始業式にちょっと来たきり全然来ないでしょう。頭が痛いなあ」
「先生のクラスの北川早苗ですね。そういえば,私も副担として授業に出てますけど,見かけたこともないですね」
「家庭環境がねえ。ぼくが家庭訪問しても,会ってくれないんですよ。恥ずかしい話ですが」
北川早苗は,A町に隣接するB市のC中学校から転校してきた生徒です。4月に,2,3度登校したきり,6月初旬の現在まで全く学校には来ていない状態です。C中でも,不登校気味だったということでした。
圭子先生は,ふと気になって「生徒顔写真集」の佐藤先生のクラスを開いてみました。
写真の中の北川早苗は,どこか幼さをとどめた気難しそうな表情で,目を細めてこちらを見つめています。じっと見ていると,何か言いたげな表情にも思えてきます。
「両親はいったん離婚したんですが,復縁して松山公園近くの父親の実家に来たんですよ。でも母親はB市のスナック経営をやめないし,夜も遅くて,帰って来ない時もあるみたいだし・…」
圭子先生の脳裏に一つの光景が思い浮かびました。タ暮れの公園。プラタナスの樹影。紫陽花の花・…ベンチにすわっている女の子,そして激しくののしりあう声,中年の夫婦・…ちょうど一年前,帰りがけの公園で見かけた光景が心の中によみがえってきました。それはその時,なぜか知らず圭子先生の心にひっかかって離れなかった光景でした。そして記憶の中のベンチの女の子をよくよく見ると,不安げなまなざしの下には大粒の涙が浮かんでいます。それは確かに早苗に