福島県教育センター所報ふくしま No.93(H01/1989.11) -018/038page

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間違いなさそうでした。

 「圭子先生,実はちょっと相談があるんですがよろしいですか。今まで,養護教諭の南先生に相談していたんですが,圭子先生にも一緒に家庭訪問をしたり,本人との面接をしてほしいんです」

 隣の保健室に,南先生の気配がしました。圭子先生は,自分にできるかな,と思いつつもっと話を聴いてみたくなりました。


 「家族カウンセリングという考え方があるの。ちょっと説明していいかしら」

 南先生は,紙を取り出して,次のような図を描きました。

(家族力動図)

 「早苗ちゃんの家族関係を図にすると,たぶんこんな感じかしら。実線は,本数が多い程結びつきが強いということ,点線は,交流が非常に少ないということね。母親と早苗の結びつきは,相当に強いけれどその分,父親とのかかわりはほとんどなさそうね。夫婦がいったん別れた時,母親が子供を弓1き取ったせいでもあるわね。復縁こそしたものの,“家庭内離婚"の状態は今も続いている・…問題は早苗ちゃんがそれをどう受け止めているかということね」南先生は,よどみなく説明し,佐藤先生はしきりにうなづいています。

 「不登校の原因は,いろんなものが複雑にからみあった結果だと思うけど,家庭内の夫婦関係が大きな要因を占めていることは間違いないわ」

 南先生によると,家族関係に問題がある場合,その矛盾を家族の誰かが端的に『問題行動』の形で表現するのだそうです。例えば,家庭内孤立児が,問題を起こすことで家族の注目を引こうとしたりするのは,その良い例と言えます。

 「理想的な家族の関係を示す図なんか,あるんでしょうか」圭子先生は,質問してみました。

 「ないことはないけど…そうね,まず夫婦関係がしっかりしていて,親子関係が信頼と情で結ばれていることかしら…あたりまえかも知れないけど…」

 「う一ん,北川の不登校の背景にはやはり家族の問題があるんですね。でも,どうやってアプローチするのかなあ。学校に呼んだ上で,問題点を厳しく指摘して,みっちり反省を求めますか」

 南先生は,おかしくてしようがないという風に笑って答えました。

 「担任の説教だけですぐ解決するならね」


母と娘・…

 翌日のタ方,圭子先生は佐藤先生とともに,北川早苗の家を訪問しました。

 平屋立ての小さな家ですが,庭はかなり広く,早苗はそこで小学5年の弟と一緒にいました。しかし,佐藤先生の姿を見るや否や,早苗は家の中に飛び込んで,内側から鍵をかけてしまいました。この日は無理をせず,また日を改めて訪問することにしました。

 2日後の昼すぎ,早苗を警戒させないために,圭子先生は一人で家庭訪問をしました。

 玄関で,「ご免ください」と3度程呼ぶと,母親らしい小太りの中年の女性が出てきました。

 「あのう,わたし,A中学校の和田と…」

 「あのね,誰もわざと休ませてんじゃないのよ。親よ,親なんだからね。行かせようとしてなんぼ苦労したか。そこまでひっぱっていくと,ほれ,そこの公園でわんわん泣きだして・…世間体というやつだってあるんだかんね。先生方は何かと言えば親のしつけが悪いって言うでしょ。そりゃ悪いですよ,悪いに決まってますよ。だけどね」

 「あのう,本当に・・ご苦労なされたんですね」矢継ぎ早にまくしたてられて,圭子先生はそれだけ言うのが精一杯でした。ところが,そう言われたとたんに,母親の顔にあっけにとられたような表情が浮かびました。

 「わたし,国語を担当している者ですが,今日


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