福島県教育センター所報ふくしま No.93(H01/1989.11) -024/038page
プロジェクト研究報告
事例を通した教育相談の進め方に関する研究
_予防的な指導援助(第1年次)_
(その3)
教 育 相 談 部
この事例は,本人に対する学級や家族のかかわりに変化を促し,問題行動を誘発する状況を変えて,不登校を未然に防いだ実践例である。
1.予測した問題行動「不登校」
2.対象中学校3年女子(S子)
3.問題行動予測の動機
・学級内に親しい友人がなく,周囲から話しかけられても明確に反応できず,黙ってしまう。
・親しい友人がなく,二学期当初,腹痛等を理由に遅刻すれすれに登校することが時々あった。
4.資料(1)学業成績・欠席の状況から
(2)家庭との連絡から
・期末テストが中間から大幅に下がり,評価は数学3,保体1,その他2,欠席は3年(3日)
・家族構成と家族システム・本人への養育態度
父は甘やかし気味であり,母は過保護であったが最近母は学習のことで過干渉ぎみになり,厳しく当たることが増えてきている。・対人関係
5.予測診断(診断)
小学校の頃も友達が少なく,現在も他学級の特定の友人に限られる。幼少児期から虚弱な体質で過保護な養育から,神経質で忍耐力に乏しく,臆病な性格である。そのため,集団についていけず孤立がちになり,学習面でも意欲がなく,劣等感が強い。
現時点では,学習面以外は両親との関係が安定しているため,問題行動は顕在化していないが,適切な指導援助がなされなければ,「不登校」に陥るものと予測される。
6.予防仮説(指導仮説)S子に対し,担任を中心として家族・級友・学年教師が受容的態度で接して,本人の学校生活や進路に対する意欲を高めることができれば,不登校は防げる。
7.予防援助(指導援助)の経過の要点(1)〔機会を見てのさり気ない話しかけ〕を多くし,S子の気持ちを受け入れ,励ましに努めたことにより,本人の情緒の安定が図られた。
(2)〔家庭との連携〕として,進路に対する母親の不安な気持ちを十分に受容し,「S子も悩んでいるので,今は指示を控えて見守っては」と提案した。母親のS子への心配を受容することによって,家族で穏やかな話し合いを持つ余裕が生まれ,本人の学習や進路に対する自主性が養われていった。
(3)〔本人へのかかわり〕として,友人を求めながら積極的に友人関係がつくれないS子に,級友を少しずつ接近させたことで,自然なかたちでの対人適応が図られた。
(4)〔学年教師のかかわり〕として,共通理解を図り,教科担任と共にS子を含めた数名の生徒に努めて声をかけ,自然なかたちで励ました。
※遅刻すれすれの登校状況はすっかり改善され,昼休みなど室内で級友とトランプを楽しむ姿が見られ,生活への意欲が高まった。
8.考察S子が不登校にいたらなかったのは,担任が気づきを深め,本人の情緒の安定に努めたことはもちろん,本人を取り巻く環境の調整によって,クラス内の人間的ふれあいを図ったためと思われる。
(文責 穂積 邦明)