福島県教育センター所報ふくしま No.94(H02/1990.2) -009/038page

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 「主題単元による総合学習」についての,このような基本的な考え方,認識を基に,「国語I」で「大津皇子」の教材を中心に指導実践した。

 「大津皇子の生き方を考える」という主題追究をねらいとして,『万葉集』,『日本書紀』,『天翔る白日一小説大津皇子一』(黒岩重吾),『文車日記』(田辺聖子)等の教材,補助教材を駆使し,内容理解とそのまとめとしての認識を表現する学習指導を展開した。

 「国語II」では,年間計画に組み込み,「旅」と「女性と自我」という二つの主題単元を設定して指導実践に当たった。本稿では,「旅」の指導実践について紹介する。

 (2)主題単元「旅」の指導実践
  1.単元の構成と指導計画

【主題単元「旅」(総時数23時間)】
単元名 「旅」 対象生徒 2年生男女
単元設定の趣旨 日常性からの脱出としての「旅」は、外界と自己内部への凝視と新たな発見をもたらし、人間の精神の成長と充実に資するるものであることを理解させる
教材 時間 指導内容
  単元の導入 0.5 ○単元設定についての説明
若山牧水の短歌
作文「旅」
1.5 ○「幾山河・・」を紹介し、教師の旅のイメージを披瀝して旅を考えるきっかけとする。
○「心に残った旅は」・「あなたにとって旅とは」の題で作文を書かせ、それを要約して生徒の考えをまとめる。
評論
「近い旅遠い旅」
(辻邦生)
○旅の意義”日常性からの脱出”が,齎す魂の高揚によってこそ外界の新たな発見や人間性の回復があることを理解させる。
詩「旅上」
「郵便局の窓口で」
(荻原朔太郎)
〇青春期の「旅への憧れ」と、人生の身実を知った作者の人生を哀しい彷徨・漂泊とみる思いを理解させる。
古文
「奥の細道」
(松尾芭蕉)
11 ○「漂泊の思い」から「象潟」までの教科書と、自主教材で郷土「郡山〜伊達」までの本文と地図を利用しながら読解させる。
○旅を自己の日常とし、芸術活動の糧とした芭蕉の人生観、自然への対し方と当時の旅の実際を味読させる。
漠詩「碩中作(岑参)
「夜雨寄北」(李高陰)
「登高」(杜甫)
○それぞれの漠詩における作者の境遇、とくに杜甫の漂泊の悲哀を味読して、芭蕉とのつながりを理解させる。
  単元のまとめ ○「旅」についての考え、イメージを個人ごとにまとめる。

  2. 指導実践の考察
  単元の選定については,教科書の「旅と人生」をもとにした。消費社会における「旅」のレジャー化がいかに芭蕉などの旅と遠いものか,という思いを生徒に伝えたかったこともあって,教材の中から「奥の細道』を取り上げた。これと,同教科書内の「近い旅遠い旅」(辻邦生),「旅上」,「郵便局の窓口で」(萩原朔太郎)を組み合わせ,更に漢詩三題を他の教科書から取った。

 「旅の意義」,「旅への憧れ」,「旅の実際」,「旅(漂白)としての人生」といった面をおおい尽くしたかったが,分量が多すぎるきらいがあった。

  3.学習後の生徒の感想
  学習のまとめの段階で,総合学習における,A「主題について」,B「単元学習について」の二点について生徒に感想をまとめさせた。

【A「旅」について、あなたの感じたことを自由に記せ。】

 「旅」とは「孤独」という感じを強く持った。「奥の細道」や「登高」では、旅=日常という感覚で書かれており、今までとは別な視点から旅を考えることができた。一番印象に残ったのは、「近い旅遠い旅」で述ぺられている「旅」の考え方でした。”脱日常”や魂の高揚'という言葉は,私にとって新しい感じ方であり、心に深く印象づけられた。


 旅の学習を通して・一人で知らない所へ旅してみるというのは良いことだと思った。孤独感、恐怖感、それに対して冒険心、新感情と複雑に交じりあい、精神的に自分を犬きくしてくれるように思えた。


【Bこうした「単元学習」について感じたことを自由に記せ。】
有意義である(83.9%) つまらない(16.1%)
{主な理由}
・一つのテーマについてじっくり学習できるので、一貫性がありやりやすい。
・共通テーマだと比較しながら学習でき・幅広い学習ができるのでよい。
・古文の学習が楽しかった。
{主な理由}
・同じテーマだと飽きる。
・まとめがうまくできなかった。
・もっと興味ある単元を設定してほしい。



 

 この感想から主題に対する認識の深まりについては,明らかに変容がみられる。また,単元学習についても,約85%がよかったと評価している。

  4.指導実践のまとめ
 ○教材間の総合については,主題に迫るよい教材の選定が学習の成否の大半を決するが,進め方は生徒,教授者共に違和感はなく,回を重ねるに連れて目然に受容されてきている。生徒には,好意的に迎えられていると考えられる。

 ○領域間の総合については,十分な対応がなされたとはいえない。主題単元の性質上「理解」領域が主になりやすい傾向があるので,今後,意識的に「表現」領域を取り入れた指導計画を考える必要がある。

4.領域間の総合に重点を置いた学習指導の試み

 一「理解」,「表現」の二領域の関連指導一平成元年3月に告示された新学習指導要領の国


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