福島県教育センター所報ふくしま No.94(H02/1990.2) -010/038page

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語科では,表現力の重視が一層強く打ち出されている。この表現力重視を主題単元による総合学習の中に意図的,組織的に組み入れて,領域間の総合学習に取り組んでみたい。

 次に示す指導計画は,「理解」と「表現」の関連指導を図りながら,「表現」,特に文字言語と音声言語に重点を置いた指導の試みである。

【1「表現(文字言語)」に重点を置いた「国語1」の指導】

1、単元設定の'趣旨

 (1)母、妻、娘(養女)の三つの愛する者との永遠の訣れを通して人生を深くみつめる心を育てる。

 (2)領域間の総合化を図り、本単元では、'短歌連作を物語りに作り上げる'学習を通して表現カ(文宇言語)の向上に重点を置いた指導をする。

2.教材
主教材 補助教材 発展教材
「死に給ふ母」
 (斉藤茂吉)
・「茂吉秀歌(佐藤佐太郎)
・「斉藤茂吉の生涯」(山上次郎)
・『作歌四十年】(斉藤茂吉)」・『評伝斉藤茂吉』柴生田稔)
「玉簾花」
 (吉野秀雄)
・『やはらかな心』
  一二人の妻一
   (吉野秀雄)
・「わが胸のそこひに'(吉野登美子)
・『小説吉野秀雄先生」(山口 瞳』)
・歌人の家」(吉野壮児)
「山鳩」
 (会津八一)
・「会津八一短歌とその生涯'(植田重雄) ・「石榴抄』(結城信一)


【2「表現(昔声言語)」に重点を置いた「国語II」の指導】

1、単元設定の'趣旨

 (1)【源氏物語』若紫巻の「小柴垣のもと」と「吉野葛」に共通する垣間見の場面から、いつの世も変わらない実母思慕という人間の性について考える。

 (2)領域間の総合化を図り、本単元では'語り'や朗読”などの音声言語を通しての表現力の向上に重点置いた指導をする。

2.教材
主教材 1、「源氏物語」ー若紫の巻ー「子柴垣のもと」(紫式部)
2.「吉野葛」 (谷崎潤一郎)
3.「『源氏物語』を語る立場から」 (関弘子)
4.「ことばのしらべ」ーしん女語りぐさー (浜田寸躬子)
補助教材 1.「源氏物語」カセットブック(関弘子)
2.「しん女語りぐさ」の浜田寸躬子の”語り”の録音
発展教材 1、生徒自身が自分で朗読してみたいと思う本を容易する。
2.語り、朗読、群読等によく用いられる作品のリストアップ。

3.指導計画(総時数17時間)
段階 時限 指導内容 形態 ※表現
導入 ○この単元の学習の趣旨を知る。
・語りや朗読についての経験やそれについての自分の考えを書く。
一斉、個人
※表現(文字)
展開I 2〜9 ○主教材1,2について学習する。
 ・「源氏物語」ー若紫巻ー「子柴垣のもと」
 ・「吉野葛」
。1.2に共通するモチーフ(実母思慕構造)をとらえ、それに対する自分の考えを書く。
一斉
個人
※表現(文字)
10〜12 ○主教材3.4について学習する。
 ・「『源氏物語』を語る立場から」
 ・『ことばのしらべ』ーしん女語りぐさー
一斉
個人
※表現(文字)
展開II 13〜16 。主教材1.2をどう朗読したらよいか、グループごとに根拠をもった工夫をする。
 ・作品の内容を考えた朗読の工夫
 ・カセットブックや録音テープの活用
。グループの代表が朗読しあう発表会を設ける。
グループ
個人
※表現(音声)
一斉
。一人一人が自分の好きな作品を選び、朗読の仕方を工夫した発表会を設ける。
 ・発展教材の提示
個人、一斉
※表現(音声)
まとめ 17 ○語りや朗読などの音声言語による表現に実際に取り組んでみての感想を書く。 個人
※表現(文字)

5.まとめ

 「国語I」の「大津皇子」から,「国語II」の「旅」の実践を通して,教材問の総合学習は概ねよい評価を得た。一歩進めて,教材化の工夫とともに,領域間の総合学習として「表現(文字言語,音声言語)」を重視した指導計画を作成してみた機会をとらえて実践したいと考えている。

 日に日に複雑な様相を呈してくる現代社会にあって,国語科の学習は,単なる知識の獲得に終わるのではなく,生徒自身の生きる力となって働く思考力,認識力として身につくものであることが要求されてきている。そのためには,幾つかの教材を,明確に意識された主題単元の中に位置づけて学習していく総合学習が,かなり有効な方法の一つであると考えられる。


参考文献
・『高等学校学習指導要領解説一国語編』(文部省)
・『高等学校国語科指導資料「表現」の学習指導−』(文部省)
・『高校国語新しい授業の工夫20選』(大平浩哉編)
・『国語科研究紀要』第13号(広島大学付属高校国語科)


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