福島県教育センター所報ふくしま No.94(H02/1990.2) -017/038page
・A男を認めた学級づくり
当初,A男をはじめとするこのグループは、校内球技大会の練習にも意欲を見せず,学級の一員としての自覚も弱く,学級の仲間からますます遊離する危険性が考えられた。
学級担任は3人の中のA男を中心に,球技大会への参加を積極的に進めることにした。そのことが,学級集団への帰属意識をもたせ,仲良く協力し合って目標を達成させるために,努力するよいチャンスであることと同時に,凝集度の高い学級づくりにつながると考えた。
1.A男に動機づけを行う。
学年主任は事前に,A男に「君はバスケットボールのリーダーに適している」との体育教師の話を伝え,担任もリーダー役を勧めた。
2.学級の実行委員を中心に選手,リーダー,練習計画,日程,応援等を決定するための話合いを持った。
体育の得意なA男はバスケットボールの選手に,K男や人気のあるD男からも推薦された。リーダー選出については担任の後押しもあり,一見,乗り気でなさそうな態度であったが,A男も結局引き受けた。
練習計画日程等について,A男を中心に相談するようまかせた。
3.練習の経過の様子
練習時はできるだけ担任も参加し,その都度A男たちを認め励ました。
A男は仲間がうまく協力しないことで,担任に苦情を話すようになった。途中投げやりな態度を示すこともあったが,リーダーとしての責任を果たした。
A男はC男,K男,D男等の協力を得ながら,計画通りメンバーをリードして練習した。
4.試合当日
準決勝で惜しくも敗れたが,A男を中心とするチームプレーを展開した。女子の応援のまとまりのよさは最高だった。
5.共に喜び合う機会を持つ
学級担任は球技大会までの練習やその結果に ついて,努力を認めると共に労をねぎらった。
A男をはじめ,選手はもちろんのこと学級全員で喜び合った。
また,学級通信等で,A男たちを含め,活躍した生徒の感想を家庭にも紹介した。
6その後の3人の変容と学級の変容この球技大会をきっかけに学級内の人間関係がよくなり,まとまりのある学級になりつつあること,学習に対する意欲がみられてきていること等について教科担任からも報告があった。このように,授業での教師と生徒との信頼関係を深めたことと,学習指導法の見直しが,学習に対する不安を持つ生徒や,学業不振の生徒の指導援助を効果的に進めることに役立ったと考えられる。
面接相談を通してこの3人の情緒の安定が図られ,A男は進学したい気持ちを高めたこと,B男,C男は意欲的に部活動を始めたこと等,学校生活への適応を励まし支えてくれた教師の存在は大きかった。
また,家庭と学校との密接な連絡を図り,子どもの得意科目や,学校行事での活躍場面等の様子について伝えたことは,家庭での本人に対する見方が変わり,親子の信頼関係を深めるために有効であった。
学級担任一人で問題を抱えず,学年主任を中心とした学年会で指導の内容・方法について共通理解を図りながら早期に対応したことは,指導援助の効果をより一層高めたと思われる。
学年主任として,この事例を通して「集団の理解と指導」についての教師の指導援助の力量を向上させたといえるのではないかと考える。また,生徒指導体制の重要性を再認識させられた。担任も,今回の経験から生徒の指導に自信が持てたように思われた。
<参考文献>
。「教育心理」日本文化科学社 。「集団理解の進め方」新村豊 。「新しいグループワ一ク」武田建・大利一雄一日本YMCA同盟出版部