福島県教育センター所報ふくしま No.98(H03/1991.2) -010/038page

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所員個人研究 ― (高等学校美術・工芸)

拡散的思考を育む学習指導

―「熱転写によるプリント染色」の教材を通して―

学習指導部  野 中  定

 はじめに

 美術科における表現の学習指導は絵画、彫塑、デザイン、工芸を題材に展開されている。そして、絵画・彫塑は純粋美術として自己の内面を表出させる心象表現にねらいをおき、デザイン・工芸は目的性と条件性を満たしていく適応表現にねらいをおくことが多い。

 高校生の特性として、成人への過渡期にあって客観性や合理性を求め、適応表現を好む傾向にある。このことは、授業において題材(課題)の目的や条件をこと細かに与えれば、集束的な作業によって一応作品の完成へ漕ぎ着かせることができる。しかし、類似な作品が多く生徒一人一人の主観や個性の表出が弱くなることも事実である。

 個性重視の視点から高校の美術教育では、柔軟な造形的思考と独創性を育むために教材を精選し、授業の構造化・個別化による指導の工夫が必要と考える。

 本研究では、生徒が小・中学校で学習した基礎的・基本的な内容や生活の中で体験したことをもとに多角的に主題が追究できるような題材を考えてみた。更に、表現の喜びを実感させるために適応表現の要素も加味し、生徒の拡散的、集束的両思考スタイルに応じられる授業の環境構成と指導の工夫を研究のポイントとした。

 1. 授業の環境構成

 芸術科の学習指導では、目標を達成するための題材や手だてが多様にあり、授業計画は指導者として腕の見せどころである。同時に、授業を成功させるためには環境構成の面でクリアしなければならないいくつかの条件や制約もある。

(1) 人的環境

 題材の設定に当たっては、生徒の個人差や適性等の実態を把握し、集団としての特性に応じられる内容であることはもちろんのこと、指導者がその学習集団の活動状況を掌握でき、個別的な指導にも対応できる体制を整えておきたい。

(2) 物的環境

 柔軟な考え方、個性的な感じ方や表し方を育てるためには、多くの資料等に触れさせ、豊富な体験をさせるのが理想である。しかし、施設・設備や材料・用具等の面で無理があったり、学校や生徒に極端な経済的負担が生じたりすることは避けたい。

 上記のこと以外にも時間的、地域的なこと等から制約を受ける場合もあり、指導者が授業計画の夢と現実との間でジレンマを感じることも多いと思われる。このようなことに配慮し、次に、美術科学習指導の一題材「熱転写によるプリント染色」を例に研究の主題に迫ってみたい。


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