福島県教育センター所報ふくしま No.100(H03/1991.8) -016/038page
5.撮影の実際と教材例
このシステムによる教材開発にあたり,はじめに中学校学習指導要頒「理科」で立体視が有効と思われる教材を洗い川してから,写真撮影を行った。そのうち,2・3年地学頒域の8点について教材化を図ったが,ここではその中の3点を紹介する。
日本にも過去に山岳氷河が存在していたといわれている。それは,カール,U字谷などの氷河地形等が証拠として見られるからである。ここに示す写真は,北アルプス・立山の山崎カールであるが,すり鉢のようなカール底とそこから流れ出た氷河が削りだし堆積させた二段のモレーン(堆石堤)が画面中央からやや左下にかけて明瞭に認められ,消えてなくなった氷河のシルエットを思い浮かべることができる程である。
1890年の瀬尾地震は、マグニチュード8.0で内陸部で起きた地震では最大規模のものであった。このとき、震源近くの岐阜県根尾谷では、瞬時にして垂直方向6m、水平方向2mのずれが生じ、根尾谷断層が形成された。今日当地を訪ねてみると、さすがにたち切られた道路はなだらかに修復されてはいるが、地盤そのものの6mの段差はいかんともしがたくそのまま残っており、立体写真からも、それは明瞭にとらえることができる。
大気中に浮ぶ雲を立体視できれば、雲の生成高度や成因に関わる三次元的広がりを視覚的にとらえることができ,有用な教材となる。それには,(地上写真とはならないが)航空機の利用が手軽である。ここに示す例は,オーストラリア上空で約1秒間隔で撮影したものである。砂漠の平坦な地形上での日射による断熱上昇でできた雲のため,雲底高度が見事にそろってぽっかり浮んでいるのがわかる。
6.おわりに
研修の先生方や生徒に見てもらった感想では,のぞきやすく,すぐ立体視できるとの声が多く,透過光で見るスライド特有の美しさと相まって感嘆の意が寄せられた。このようなことからも,個別提示による立本視システムとして,本システムは一応の完成は見られたと思う。スケールの大きい地学事象に立体視を活用することは,直接経験を深化,補充させる上で大きな効果があり,そうした意味での活用のため,今後,学習課題に直結したより多くのソフト(立本写真スライド)を収集して行きたい。