福島県教育センター所報ふくしま No.102(H04/1992.3) -004/038page

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所員個人研究(高等学校 世界史)

=生徒の意欲を高め、思考力・判断力をふかめるための教材研究=
ナチズムとユダヤ人

学習指導部   赤 塚 公 生

1. はじめに
 社会科において,社会的思考力・判断力をどう育てるかは,最も本質的な課題の一っである。歴史学習とのかかわりで言えば歴史的な事象の持つ意味を自らの生き方との関連で理解し,判断する力を育てることが求められていると言えよう。
 ここで紹介するスライド教材「ナチズムとユダヤ人」は,「世界史」学習においてそうした課題に応えようとする一つの試みである。生徒の学習意欲を高めながら,歴史的な事象の背後にある人々の生き方について考察させ,民主社会の倫理についての理解と判断力を深めようとしたものである。

2. 「ナチズムとユダヤ人」
 (1)スライド教材のねらい
 ナチズム支配下での狂気や,ユダヤ人虐殺のせい惨さについては,写真やビデオで眼にする機会が多く,生徒の関心も高い。しかし,「なぜ,そのような悲劇が起こったのか」「その時,普通のドイツ人はどうしていたのか」「狂気を防ぐ手だてはなかったのか」などについて考えさせ,自分の問題として考察させていくような教材は少ないように思われる。
 歴史における「内在的理解」の重要性から言えば,単にナチズムを断罪するだけでなく,当時の歴史的状況を生きた人々の心のなかに立ち入って理解しようとする視点が必要である。そこで,竹山道雄の論考,ハンナ・アーレントの「イェルサレムのアイヒマン」など一連の著作,フランクルの「夜と霧」収容所での極限状況下における人間の尊厳をめぐる考察一などを生かし,歴史における人間の生き方について考察させる教材を製作したいと考えた。
 例えば,アイヒマンは強制収容所における虐殺の象徴的人物であるが,イェルサレムの法廷に現われた彼は,一人の”an ordinaly man”でしかなかった。この“普通の人間"が,歴史的な状況によっては,天使にも悪魔にもなりうることが問題なのである。
 このような観点から,問題意識を次のような課題に集約した。
 1.なぜ,このような悲劇が起きたのか。
 2.なぜ,悲劇を避けることができなかったのか。
 3.なぜ,ナチズムが人々の心を引き付けたのか。
 4.普通の人々は,どのように考え,行動したのか。


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