福島県教育センター所報ふくしま No.106(H05/1993.3) -029/038page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

張が高まることが多くなった。さらに,入学という環境の変化に対する緊張も重なり,母親の愛情を強く求めようとしたが,受け入れられなかったため,『赤ちゃん返り』を呈したものと思われる。
(2) 母親は,A子を離すことに不安を抱いている。これがA子を精神的に未熟な子として成長させ,不登校へとすすんでいった原因の1つとなっていると考えられる。

5.指導方針

(1)両親へのかかわり
1.面接を通してA子へのかかわり方の問題点を考えさせ,養育態度の改善を図る。
2.A子に対する母親の愛情が,以前と少しも変わっていないことを,A子への対応の仕方で気付かせていく。
3.A子にできることは任せる。また,ほめたり,励ましたりすることによって自信をつけさせ,自主性を育てる。

(2)本人へのかかわり
1.他の子供たちと一緒に遊ばせ,社会性の育成に努める。
2.一人で登校できるようになるまでは,母親と一緒に登校させる。母親と一緒に教室で勉強することを許容する。
3.学級担任がA子とのラポールをつくり,時には母親の代わりを演ずることに努める。

6.指導援助

両親の養育態度の改善 担任としてのA子へのかかわり
母親が,不安定なA子の気持ちに気付いて,養育態度を改善していくように,面接を通して次のような指導援助をした。
○母親の愛情が,A子自身に十分注がれていることを感じとらせて,「お母さんを取られた,お母さんは変わってしまったという幼い心配を取り除くため,次のようにかかわってくれるよう話した。その結果,母親は,次のようにかかわった。
・A子の名前を機会あるごとに呼ぶようにした。
・A子が話しかけてきたり,体に触れたりするなど,かかわりを求めるようなしぐさをしたら,「な一に?」「どうしたの?」「そうー」「そうなの」と,やさしく聴くようにした。
・授乳のとき,「姉ちゃんも,こうしてお母さんのオッパイを飲んでいたのよ」と言ったり,おむつを取り替えるときに,A子の小さいころを思い出して,懐かしそうに話してあげたりした。
○自分のことは自分でできるようにしつけることを目指しながらも,できるだけA子の要求に応じてあげるように勧めた。
その結果,母親は次のようにかかわった。
・A子が,「お母さん,着れない,やって」「一人じゃ.片付けするのはイヤ」などと甘えてきたときには,その要求に応じてやった。手が離せないときは,「後で一緒にしようね」とやさしく言って,A子の甘えを受け入れてあげるように努めた。
○A子が父親と遊びたい気持ちであることを,理解してもらった。特に遊びを通してA子とのきずなを強めることに焦点づけて話をした。その緒果,父親は次のようにかかわってくれた。
・父親の運転で公園や買い物などに行った。
・一緒に植木に水をあげたり,金魚や犬の世話をしたりして,できるだけA子とともに過ごす時間を多くもつよに努めた。
○A子が,再登校する際に抱くであろう不安や緊張を取り除くために次のようなことに配慮し,受け入れ態勢を整えた。

・A子の気持ちを傷つけるような言動がないように,学級の児童にA子がお母さんと登校する日もあるので,A子と仲良くしてね」と話した。
・学級での存在感を味わわせるため,学級におけるA子の役割を本人の希望する『お花係』とした。
また、A子と仲良しのB子を同じ係にし,一緒に水をあげたり・陽のあたる所へ植木を出したりする仕事を経験できるようにした。

○A子の家に遊びに行く機会をつつくり,級友たちのかかわりが維持されるようにした。
・A子が参加した遠足の写真や友達の書いたお便りを仲のよいB子に持たせ届けさせた。
・仲のよいB子とC子に訪問させ,A子の好きなお絵かきや折り紙などを一緒にした。
・担任と,B子,C子が訪間し,庭で一緒になわとびや,風船つきなどした。
このような場では,担任が,母親もA子と一緒に遊ぶように促した。その週程でA子を受容したりほめたりしながら,社会性を育むかかわり方を母親に示した。

○2か月ぶりで母親と登校したA子を,児童たちが温かく受け入れてくれるように次のように配慮した。A子ちゃんの席はここよ,私のそはね」「A子ちゃんのかかりはね,私と一緒にする『お花係』なの」などと,やさしく話かけさせた。また,休み時間には「A子ちゃん,校庭で一緒に遊ぼう」と誘うようにさせた。

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。