福島県教育センター所報ふくしま No.110(H06/1994.3) -029/038page
このようなA子に対して,その気持ちを 共感的に理解 し,「苦しい思いで学校生活を続けてきたんだね。」と受容した。
身体症状に焦点 をあて尋ねると,腹痛については「おなかが張ってくる」と説明した。A子はこの悩みを,小学校5年生のころから中学校2年生の2学期まで, 誰にも相談せず,ずっと我慢 して苦しんでいた。
3学期になり,症伏が悪化したため,初めて母親に相談した。しかし,身体的には異常はなく.母親も真剣に話を聞いてくれることはなかった。母親は腹痛の原因について,「生活が不規則だから」と,A子を一方的に非難するような口調だった。
母親には「集団場面で緊張する」というA子の気持ちは伝わっていなかった。そこでA子の長年の苦しみを説明したところ,娘の気持ちを察し切れなかったことを反省している様子がみられた。そして,「私も人づき合いは得意な方ではないんです。」と自責の念にかられたように発言した。
まずは,そのような母親をしっかりと支えることに心がけた。母親も生育歴を振り返る中で,「今までのかかわりが少なかった」と気づき,A子に対して,受容的に接していくことの重要性を認識していった。さらに,「思春期の女の子にとっては,母親こそが女性としてのモデルです。お母さんの存在は,A子さんにとってプラスになりますね。」と励ました。
(2) 2回目のA子との面接より
今回は 家族に関する話 から始めた。父親については「何が楽しくて生きているのかわからないような人」と表現した。母親については「心配はしてくれるが,私の気持ちをわかってくれることは少ない」とやや批判的な態度だった。両親の見方については,肯定的な側面を強調した。
また妹について,「活発で友人も多い。運動神経も成績もいい。姉としての面目は丸つぷれ。」と自嘲的に言っている。そして, 「私は両親の悪いところばかりもらってしまった。 」と「自己否定感情」や「家庭内での孤立」が強く感じられた。
(3) 3回目のA子との面接より
今回は, 学校内での人間関係の悩み を話し始めた。もともと友人は少なかったが,2学期になってから,クラス内で完全に孤立してしまった。「自分がいると,クラスの人達はおもしろくないと感じている」と思い,1週間ほど学校を休んだため,ますます孤立するという悪循環に陥っていた。
腹痛については,「おならが漏れそうになることがあり,実際,漏れていることもある。」と訴えた。このため, 周囲や背後に人がいる場面に耐えられない ようで,新学年での席替えを大変心配していた。
(4) 4回目のA子との面接より
新学年になり4回目の面接に訪れた。1日も休まず登校しているとはいうものの,表情は暗く,「学校にいるのがつらい」と訴える。席が教室の真ん中になったため,周囲が気になり,ますます「おならが漏れるのが気になる」ようになったと言う。A子の様子から『自己臭恐怖症』が疑われたので,医療機関での受診を勧めた。