福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.121(H09/1997.7) -002/042page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

〈特別寄稿〉

庄司写真

「生きる力」は日々の授業から

               福島大学教授 庄司 他人男



 1 戦後教育50年と「生きるカ」

 中教審は昨年7月「生きる力」の育成を根幹とする答申を出したが、奇しくも、ちょうど50年前の最初の学習指導要領でも、ほぼ同様のことが力説された。

 今年は戦後教育50年の大きな節目の年になるが、昭和22年の最初の学習指導要領・一般編では、教育の目標を「個人生活」「家庭生活」「社会生活」「経済生活および職業生活」に大別し、それらの面における「生活を営む力」を力説した。これは戦後新教育の特徴を端的に示すもので、まさに「生きる力」であったと言えよう。

 その後の歩みを学習指導要領によって簡単にふりかえるならば、戦後新教育は基礎学力の低下をもたらしたなどの批判から、昭和33年には大改訂された。基礎学力の向上を重視する系統主義の教育に軌道修正されたのである。この方向は基本的には昭和43・4・5年(小・中・高)の改訂でも継承されたが、さらに、科学技術の著しい進展を背景に「教育の現代化」が強調された。それと同時に、例えば算数・数学の指導内容の一部分をより下の学年に下ろすなど、指導内容の「高度化」も図られた。

 一方、昭和50年前後になると「落ちこぼれ」や校内暴力など学校不適応の状況が全国的な広がりをみせた。そして昭和52年の改訂では「ゆとり」と「人間性豊かな教育」を軸に、それまでの方向に重要な修正が加えられた。

 そして平成元年には現行の学習指導要領に改訂されたが、それは「心豊かな人間の育成」と自己教育力をべ一スにするもので、基本的な方向はそれほど変わっていないと言えよう。その後、これは「新しい学力観」として具体化され、授業改善の大きな指針となって、現在に至っている。

 中教審答申のいう「生きる力」は、「新しい学力観」の意義を再確認し、いっそうの徹底を訴えたものと言えよう。

2 「大変な時代」における「生きるカ」

 さきに、戦後新教育でも「生きる力」(生活を営む力)が強調されたと言ったが、当時のそれには戦後の復興と民主国家の建設という、どちらかと言えば見えやすい目標があった。しかも、そのモデルを外国に求めることもできた。

 しかし、今や日本は、堺屋太一氏のことばを借りれば、変化が急激でこれまでの常識が通用しない、不透明な「人変な時代」に入っている。(1)このことは政治や経済の分野にとどまらず、学校教育にも明瞭に現れている。いじめや不登校、学びの空洞化などはその最も顕著な例であろう。

 では、このような不透明な時代における


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。