福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.121(H09/1997.7) -017/042page
1 「よい子」のまなみちゃん
小学校3年生のまなみちゃん(仮名)は、友達に示す思いやり、係活動での責任感、授業への真剣な取り組みなど、どれをとっても「よい子」です。この春から新しく学級担任になったさと子先生(仮名)が毎日目にしてきたまなみちゃんも、 「よい子」のまなみちゃん でした。
そのまなみちゃんが、5月半ばの運動会後、3日連続で学校を休みました。かぜという連絡があり、さと子先生も運動会の疲れと考えていました。ところが、翌日の朝のことです。
母 親 : 先生、まなみなんですが………。
担 任 : かぜ、いかがですか。
母 親 : 実は………まなみが、ここ数日毎朝「学校に行きたくない」と言って泣いているんです。電話の向こう側から母親の動揺が伝わってきます。さと子先生も驚いています。あのまなみちゃんが「学校に行きたくない」と言っているなんて信じられません。
担 任 : ………何か学校に来たくない理由があるんでしょうか。
母 親 : それが………「別にない」って言うんです。
担 任 : そうですか。
母 親 : 手のかからない、よい子だったのに。どうしたらいいんでしょう。さと子先生もどうしたらいいのかわかりません。ただ、 まなみちゃんに会いたい と思いました。母親にその思いを伝え、その日の放課後に、家庭訪問をすることにしました。
お母さんに呼ばれて、恥ずかしそうな素振りでまなみちゃんは先生に会いました。
担 任 : こんにちは、まなみちゃん。
まなみ : こんにちは。
担 任 : かぜ、もう大丈夫?
まなみ : うん。
担 任 : 運動会で疲れちゃったかな。
まなみ : …………。
担 任 : みんなも心配してるよ。
まなみ : ……………。まなみちゃんの沈黙に、さと子先生は少しずつ焦りを感じ始めています。話をするほど、まなみちゃんはうつむいていきます。何だか、叱られている子のようです。
さと子先生は、本当は「学校で何かいやなことがあったの」と聞こうと考えていました。でも、今それを聞くことは、まなみちゃんを責めることになるような気がして、どうしても聞けませんでした。
「まなみちゃんの顔が見られて嬉しかったわ」 さと子先生は 素直な気持ちを伝えました。 うっむいたまなみちゃんが顔を上げ、小さく笑顔をみせてくれました。
さと子先生は帰途につきました。
しかし、さと子先生の心は揺れています。これからどうしたらいいのかしら。