<事例> あきら君の母親からの相談
あきら君は、小学校5年生。やや太り気味の体型です。どことなくおどおどした様子が見られ、表情の乏しさも感じられます。
担任の青山先生は、30歳代半ばの女の先生です。子供たちの様子が分かるにつれ、あきら君の様子が気になっていました。
ある日のこと、あきら君が母親の書いた手紙を青山先生に届けました。
「青山先生、いつもお世話になっております。
あきらのことでご相談したいことがあるのですが、先生の都合のよい日を教えていただけないでしょうか。」
どのような相談内容であるかは分かりませんでしたが、3日後に学校で話を聞くことにしました。
来校した母親は、礼を述べた後、次のように切り出しました。
「少し長くなりますが、よろしいですか。」
青山先生は、一瞬「えっ。」と思いましたが、母親のために放課後の時間を確保していましたので、
「構いません。どんな話ですか。」
と答えました。
すると、母親は、あきら君が生まれたころのことから順々に話を始めました。
「実は、あきらが生まれたころは、夫の仕事がうまく行かず、金銭的につらい時期でした。夫は、毎晩酒を飲んで帰ってきて……。」
母親は、夫や姑との関係で自分が苦労したこと、それがあきらの性格に影響を及ぼしたと心配していること、低学年の担任の先生が親身になってくれなかったこと、家庭でのわがままに困っていることなど、時には涙を流し、時には怒りをあらわにしながら話すのでした。
青山先生は、「長くなっても構わない」と言った手前、話を遮ることもず、相づちを打ちながら最後まで聞いていました。2時間近く経過したころ、母親は子供をよろしくお願いしたい旨を伝え、すっきりした表情で帰っていきました。
母親が帰った後、青山先生は疲れがどっと出て、しばらく椅子に座ったままでした。
「ああ、疲れた。それにしても、長かった。でも、お母さんは、何を相談したかったのかしら。」
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