川島先生は40代前半の男の先生です。今はクラス担任を離れ、進路指導部長をしています。
5月の連休明け、川島先生は進路指導室で新聞を眺めながらため息をついていました。
「高校新卒者の離職、1年目で3割、3年以内が5割か……。せっかく就職できたのに、もったいないなあ……」
「先生、こんにちは!」
そこへ平日だと言うのに、昨年の卒業生が二人、笑顔で入って来ました。
「おいおい、『こんにちは』じゃないよ。仕事はどうしたんだ!?」
驚く川島先生をよそに、二人は平然と
「辞めちゃいました」
と答えました。
「求人票と仕事の中身が違うんですよ」
「仕事がおもしろくないんです。それに職場の人間関係にも疲れちゃって」
「やれやれ……」
川島先生は再び大きなため息を漏らしました。「どうしてこんなに簡単に辞めてしまうんだろう。職場見学もインターンシップも取り入れてきたのに……」
二人が帰った後、川島先生は胸の中のモヤモヤを同室の先生に話しました。すると、「川島先生の気持ちはわかりますが、卒業させた後は生徒自身の問題じゃないですか」
という言葉が返ってきました。
「うーん、それはそうなんだが、でも……我々にも何かできることがあったんじゃないだろうか。職場体験もさせた。求人票の見方や仕事の内容についても説明してきた。それでも彼らは仕事を辞めていく。この現実をどう考えたらいいんだ……」
川島先生は椅子の背もたれに体を預けながら、ぼんやりと天井を眺めました。
「待てよ……」
川島先生は急に体を起こしました。
「私が今までやってきたことは、単なる学校の紹介や就職ロの斡旋だったんじゃないか?生徒たちに将来の生き方や在り方を考えさせるような進路指導をして来なかったんじゃないか?」
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