教育福島0004号(1975年(S50)08月)-007page

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童・生徒の行動の制御、教師の行動の制御等の有機的関連づけをしようとするものであって、こうした領域の個々の機能を最適化することを含むものであると言える。

それでは教育工学的考え方とは何か、ここでは教授=学習過程に限定して述べてみたい。

 

一、教育工学の出発

 

教育工学の導入を可能にしたものはそこに機器があったからということではない。機器や工学的な考え方を可能にする理論が発見され、その理論を実現できる機器が作られたことによってである。

スキナーはネズミやハトがどのような制御によって学習するかを記録装置を使って彼らの学習行動を明白にした。空腹のネズミを給じ装置のある実験装置の中に入れ、装置されたレバーを押せばえさがでるようになっている。初めはその行動も偶然に依存したかも知れないが、ネズミはそのレバーを押せばえさがでることを学習し、その操作を繰り返す。つまり学習が成立したわけである。また、ハトの場合は、飢えたハトを給じ装置のついた箱(スキナーボックスと言う)に入れ、黒い円板に垂直方向の白いしまが出た場合はえさが出る装置をつけ、白いしまが水平になった場合にはえさが出ないようにする。その結果、ハトは垂直のしまのときだけ反応したことを報告している。

このような実験からスキナーは学習が成立するのは、学習への動機づけ(ここでは空腹であること)と正反応する条件によって強化されると判断した。これは一般に「オペラント条件づけ」と呼ばれるものであるが、ある行為が学習されるためには、それを強化する因子(ここではえさ)を随伴させることによって強化されると言うのである。

スキナーの最初に作られたティーチングマシンもこの理論を人間の学習に応用したものなのである。人間の場合はその強化因子は動物の場合とは違って食べ物に限らず種々のものがある。生徒への動機づけを考えた場合でも、強化因子は、与えられた課題が理解できたという成功感によっても強化される。人間は従来、好奇心や知識愛が備わっており、課題が解明できれば、それだけでもって自主的に学習するものなのである。

スキナーがその後のティーチングマシンによる種々の実験の結果から提起したいくつかの理論を整理すると次のようなものである。それは、児童・生徒が学習に取り組んだ場合課題が明瞭であること、自分の学習の結果が正解か否かを即時に反応し、即時にフィードバックが与えられることであり、そうした学習過程では学習者は注意の強い集中化がなされていると言うのである。そしてもう一つは、課題が理解しやすさへ構造化されているということである。

 

二、教授=学習過程の改善

 

スキナーの理論は直接的にはプログラム学習を生み出したものであるが、教授=学習過程の改革に教育工学を導入するに当たっては、学習のプログラム化(たとえ、発見学習という方法をとるにしても)を抜きにしては考えられない。したがって教育工学への出発は、教授=学習過程の中心となるよい授業のモデルの作成と教育目標の設定及び表現行動、フィードバックの改善ということから始めなければならない。

ベテランの教師の教授過程とはどのようなものであろうか。名人芸とされる彼らの行動には、オバートなものとして認知することのできないブラックボックス的部分もあるであろう。しかし彼らの行動や頭の中の制御装置を解明した場合、おそらく次のようなものとして考えられるのでなかろうか。第一は教えることが何であるかが明白であること(目標行動の明確化)、第二は教師が課題を提示したり、ヒントを与えたり、強化したりする表現行動が適切であって、学習者の理解のテンポに合致していること(表現行動の適切性)、第三は、様々の方法によって、児童・生徒の積極的な反応を促し生徒たちがまさに学習に参加しているという行動が与えられていること(積極的反応又は行動しながら学ぶ)、第四には、それらの反応に対して適切なフィードバックを与え、児童・生徒が自ら積極的に学習していくことに対して援助すること、などであろう。

教育工学的考え方は、こうした名人の教授法を手がかりとして、だれでもが成功的に教育を実践できることへの方法論なのである。そのためには、学習の結果が評価され、制御が可能なように学習行動がオバートな行動(あらわな行動)として明白であり、学習者が学習する以前と違った反応を確認できるようにシステム化されなければならない。

教育の現場で授業を分析した場合、教師の意図に反して学習者が反応することがある。こうした教育における失敗は、教案の目標行動が明確化されていない場合が多い。

たとえば、小学校指導要領第五学年理科の中で「せっけんの働き」について述べたところを見ると、「日常生活に関係深い燃焼、せっけんの働き、酸性、アルカリ性の物質などの性質などを実験により調べ、それらの性質の変化を理解させる」とある。更にこの目標をより具体的に示すために、内容として「(ア)ま水、食塩水などにせっけんを入れよく振ると食塩水のほうはせっけんが溶けにくく、あわだちの悪いことに気づく」とある。その他いくつかの場合の例があるが、このような表現で表された目標行動が実践の授業の中で教師はどのような行動をもって学習者が「理解させ」られているのか、

 

 

 


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